第9話 メルティーナ法国。英雄の弟子。
「そういえば、弟子と明確に言った事ってない気がするけど、どうしてそんな風に取られているんだろう?」
と、セシリアが今更な事を口にする。
「それは、例の魔物の大群が現れた――魔軍事変と呼ばれている――あの一件の影響といえよう」
アルディアスの返答にセシリアは首を傾げる。
「というと?」
「クレリテや剣の聖女が戦場にいるのは、ディアスの事を考えれば当然だが、ルーナは教会の人間でもグランベイルの街の一件における『英雄』でもないだろ?」
と、アルディアスに代わり告げるアルフォンス。
「たしかにその通りであります」
頷いてみせるクレリテに、アルフォンスは言葉を続ける。
「だが、英雄に匹敵するような戦闘能力を持ち、最前線で敵を蹴散らしていく上に、村に結界を張る際には、それを補助するようなガジェットを作って設置していった。その姿から英雄ラディウスの弟子ではないか……と、そう多くの者が考えたようだ」
「な、なるほど、言われてみるとその通りというか……あの戦いで、ルーナだけ協会関係者でも英雄でもなかったですね……」
セシリアが得心がいったと言わんばかりの表情でアルフォンスの方を見て、そんな風に口にする。
「まあ、実際一番最初に俺の技術を教えたのはルーナだから、あながち間違いというわけではないな」
ラディウスが腕を組みながらそう言って頷いてみせると、
「だとすると、私もそういう事になるよね」
「私も同じなのだわ」
なんて事を言うセシリアとクレリテ。
「それはそうだが、そもそも俺は弟子だの師匠だのという括りはしていないしな……」
「でも、師匠と弟子という事にしておいた方が、色々と説明が手っ取り早い面もあるかもしれませんですよ」
「ふーむ、たしかに……」
カチュアの話を聞き、顎に手を当てながら、なるほどと思うラディウス。
――闇の魔匠と呼ばれるよりは、弟子の方が良いわね……。少し距離が近い感じがするし。
ラディウスを横目で見ながら、ルーナがそんな事を考えていると、
「まあ、ギルドマスターと名乗らない方が手っ取り早い時もあるからな。――なあ、エレナ」
なんて事をレインズが言い、エレナの方を見た。
「……そ、そうですね。まあ、あれは半分趣味みたいなところもありますが、横暴な冒険者や、何らかの裏がある冒険者を見つけるのには丁度良いですね。……もっとも、ジェイクスの事は見抜けませんでしたが……」
話を振られたエレナはそんな風に答えた後、はぁ……と、ため息をついて肩を落とす。
「まあ……そこは、さすがに相手が悪すぎたとしかいいようがないな」
レインズが慰めるようにそう言うと、アルフォンスがそれに続くように、
「あの連中の偽装を看破するのはなかなか難しいかんな……。そのせいで、先に話した剣の聖女をひとり失っちまったわけだしな……」
と、心底残念そうな表情で言葉を紡ぎ、首を横に振った。
「……あの一件は、冒険者ギルドの冒険者の協力がなかったら、より被害が拡大していた気がしますね」
「そうだな。……あの一件があった事で、冒険者の重要性を頭の固い連中に理解させられた……とも言えるな。まあ、もうちっと早く理解させたかったが……な」
などというアルディアスとアルフォンスの会話に、ラディウスは思う。
――過去に何かあったようだが……時を遡ってくる前の俺は、教会についてあまり興味がなかったから、良くわからんな……
もう少し、興味を持っておくべきだったか……
「っと、ギルドといえば……ギルドに関係する話で、色々と詰めたい事があると、グレッグが言っていなかったか?」
と、そんな風に言ってアルディアスの方を見る。
――グレッグ? たしか……冒険者ギルド総本部の、2代前の本部長がそんな名前だったような……
レインズはグレッグという名前を聞き、ふとそんな事を思った。
魔軍事変の時、何気にルーナだけ一般人だったんですよね。
(ラディウスは既に英雄扱いだったので)
さて、そんな所で次回の更新ですが……明後日、月曜日を予定しています!




