第6話 メルティーナ法国。空間の歪みと波。
「……? どういう事でしょう? 猊下のお部屋はこの天剣宮にございますが……」
アルフォンスの発言の意図を理解出来なかったアルフォンスがそう問いかける。
「もしなんかあった場合に、ここからじゃ駆けつけるまでに時間がかかりすぎんじゃねぇか。無論、何もねぇとは思ってるが、可能性がゼロじゃねぇ以上、俺も近くに移動しておくのが良いに決まってんじゃねぇか」
「……決まってはいないと思いますが……。まあ、承知いたしました」
アルディアスはアルフォンスに対し、若干呆れ気味にそう返しつつ、頭を下げる。
――ああ……あれは、あれこれ言うのを諦めたって顔だな……
なんて事をラディウスが思っていると、
「……どうやら、ビブリオ・マギアスの連中が、グランベイルで色々と嗅ぎ回っていやがるようだぜ」
と、そんな風に言ってくるアルフォンス。
唐突な話に、どういう事かと思いラディウスが顔を上げる。
すると、その目に少し前にお茶を注ぎに来た修道服の女性が、いつの間にか教皇の横に立っているの入ってきた。
――この修道服の女性が、アルフォンスに情報を伝えたようだが……いつの間に?
そんな事をラディウスが考えている間にも、アルフォンスは言葉を続ける。
「早速、ルーナの父君や母君と接触を図った奴がいるようだ」
そう告げられたルーナは当然の如く、「えっ!?」という驚きの声を上げ、椅子から立ち上がった。
「ああ、大丈夫だ。心配ねぇ。大した情報は得られそうにねぇと判断したのか、少し話をしただけで立ち去ったみてぇだかんな」
「そ、そうでしたか……。余計な事を言わずに一安心です」
ホッとして椅子に座り直すルーナ。
「あ、心配していたの、そっちなんだ」
「そりゃ、ふたりともビブリオ・マギアスの下っ端程度に負けるわけないし」
セシリアの言葉にそう返すルーナ。
――エリーシアは、下っ端じゃねぇと思うが……って、そういや、誰が接触したか言ってなかったわ。
……ま、いいか。別にそこは重要じゃねぇし。
それに、ルーナの両親――あのふたりであれば、もしエリーシアと戦闘になったとしても、勝つのは難しいかもしれねぇが、負けるような事もねぇだろうからな。
なんて事を思いながらアルフォンスは、
「今の所、聖堂へ向かった事は気付かれていねぇようだが、まあ……時間の問題だろうな。もしかしたら、ゲートの存在にも感づかれるやもしれん。んで、ゲートは聖堂内にあるかんな、この国に転移した事を推測して来やがったとしてもおかしくはねぇ」
と、そこまで一気に可能性を口にした所で、ふと何かに気づいたように、
「……いや、そもそも『転移の波』を追跡されたらバレるか……」
なんて事を言った。
「転移の波……ですか?」
「ああ。ゲートとゲートを接続する為に空間を歪ませっからな。その歪みが空間上に波を発生させるんだ。まあ、波つっても目に見えたりはしねぇし、局所的だから、周囲への影響は皆無に等しいんだがな」
ラディウスの問いかけに、そう答えるアルフォンス。
――ゲートでの空間転移時には、そんなものが発生するのか。
さすがに使った事がなかったから始めて知ったぞ。
……それにしても、『空間の歪み』による『波』……か。
うーん、何か引っかかるような気がするんだが……何だ?
ラディウスは、一瞬『空間の歪み』と『波』というふたつの言葉に、妙な引っかかりを覚えたが、それがなんであるのかはさっぱり分からなかった。
転移といえば……みたいな話ですね。
といった所で、また次回! 次の更新は明後日、火曜日の予定です!




