第1話 メルティーナ法国。影なる密話と転移ゲート。
ラディウスたちが聖堂に入ってから、しばしの時が経過した頃――
「グランベイル以降の足取りが掴めない……だと?」
「然り。グランベイルに辿り着いた所までは追跡出来た。その先が不明瞭」
「グランベイルに潜伏しているのではないのか?」
「その可能性を考え、調査済み。然れど、気配皆無」
「……ヴィンスレイド卿の情報によると、あの地には複数の古代遺跡が存在し、空間が歪んでいる場所もあるという……まさか、生きている転移ゲートが存在している……のか?」
「転移ゲート……。得心。転移による逃走……可能性あり」
「もしそうだとすると、どこへ転移したのかを探らねばならぬ。……空間の歪曲反応を探知する魔法――ガジェットが必要……か。仕方があるまい、本拠に情報伝達の上、ガジェットを要請する。そちらは準備が整うまで、そのまま街中を探れ」
「御意。関係者とも接触を試みる」
「構わぬが……慎重に頼むぞ。特に、少々厄介な勢力となりつつある教会には察知されぬよう注意せよ。むしろ、一旦は近づかぬくらいで良い」
「承知。教会の者は回避。他の者との接触を行う」
「うむ」
などという会話が、妙な手鏡を通して、グランベイルの片隅で行われていた。
◆
「す、凄いっ! 本当に一瞬で全然違う場所まで移動したわっ! い、一体どうなっているのかしら……!」
転移ゲートでメルティーナ法国に到着するなり、興奮しながらそんな事を言いつつ、自身の足元――4つの円柱に囲まれた台座に、ルーナが手を触れる。
「いや、さすがにコレは解析不可能だと思うぞ。俺も以前、何度か壊れているゲートで、術式の構成解析を試みた事があるが、さっぱりわからんかったくらいだからな」
と、ルーナに対してそう告げるラディウス。
「ラディウスさんがそう言うだなんて……転移ゲートというのは、やはりとんでもない代物なのですね、です」
「まあ、一瞬で長距離を移動しちまうような代物だからなぁ……」
なんて事を、呟くように言うカチュアとレインズ。
「壊れているゲートって言うと……ガーディマ遺跡? たしか、あそこに壊れているゲートが数基あったはず」
「たしかにありますね。ついでに言えば……あそこがあのような奇妙な状態になっているのは、転移ゲートが壊れた『何か』がかつて起きたのが原因である……と、最近は言われていますが……もしやそれを調べに?」
「……あ、いや……俺が行ったのは別の遺跡だ。グランベイルへ来る前にちょっとな」
セシリアとエレナの問いかけに、ラディウスは一瞬詰まりながらそう答える。
――っと……危ない危ない。まさか時を遡る前の話だとは言えないからな。
まあ、いずれ折を見て話しても良いのではないかとは思っているが……まだその時ではないだろう。
しかし、ガーディマ遺跡……とその周辺の重力や空間がおかしくなっているのは、ゲートが壊れるような『何か』がかつて起きた事が原因……か。
なんだか少し気になる……いや、何かが『引っかかる』な。一体何が、だ?
ラディウスがそれについて考えていると、
「――予定よりも大分早い到着になると聞き、慌ててやってきたのだが……どうやら間に合ったようだね」
という、聞き覚えのある声がした。
――この声は……
というわけで、5章の舞台は今までとは国が代わり、メルティーナ法国となります!
まあ、例によって向こうの世界にもそのうち行く(想定な)ので、法国内のみというわけではありませんが……
といった所でまた次回! 次の更新は明後日、土曜日の予定です!




