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第4話 魔工士は教える。作業をするルーナ。

「い、いやいや、無理よ無理! だって、私、魔工士でもなんでもないしっ!」

 ルーナは当然のように、大慌てで手と首をブンブンと左右に振って拒否する。

 

「さっき、全ての魔法を知りたいとか言っていただろう? ならば、魔法の基礎を知るちょうどいい機会だぞ」

「え、えーっと……。それはまあ……たしかにそう言ったわ……。で、でも、なんていうか、凄く複雑そうだし……さすがに、素人がおいそれと手を出していいものじゃないような……そんな気がするわよ? これ」

 なおも尻込みするルーナに対し、ラディウスは球体に顔を向け、

「大丈夫だ。さっき言った通り、見た目よりも大した構造じゃないからな、これ。というか、むしろ重要な部分は至って単純な構造だ。おそらく、作った奴の技量が低かったんだろうな。無駄な部分――あってもなくてもいい部分が多いせいで、複雑に見えているだけだ」

 と、ヤレヤレといわんばかりの表情で肩をすくめながら、ため息交じりに告げた。

 

 実際には、ラディウスにとって簡単なだけであって、並の魔工士では手が出せない程の複雑さだったりする。

 さらに言えば無駄と言っている部分も、それが無駄である事はラディウスしか知らないようなレベルなのだが、そう言われたルーナは、そういうものなのかと信じてしまった。

 そう、信じてしまったのだ! これが未来に――歴史に大きな変化を与えるキッカケとなるのだが……まあ、今は置いておくとしよう。

 

「そ、そうなの……? 簡単なの?」

「ああ、簡単だ。単なる見かけ倒しだ」

 改めて自信満々な表情で、簡単だ、見かけ倒しだ、と言われた事で好奇心が湧き上がってくるルーナ。

「で、でも、何をどうするのか、さっぱり分からないわよ?」

 

「そこは俺が教えるから心配するな」

 と、そう言って手袋を差し出す。とても良い笑顔で。

 

 ルーナは、うーん……と、しばし考え込んだ後、

「……じゃ、じゃあ、まあ……とりあえずやってみるわ……。む、無理だったら交代してね」

 そう答えてラディウスから手袋を受け取り、それを手に嵌めた。

 そして、ラディウスの横――青い球体の前に立つ。

 

「――まず真正面、青い配線の裏にある菱形のプレートは見えるか?」

 そう問われたルーナが、視線を正面の青い配線の裏へと向ける。

「え、ええ、見えるわ。たしかに菱形のプレートがあるわね」


「あれが、セキュリティシステムのプロセッサ――まあ、一般的に呪いと言われている代物の正体というか根源だ。大雑把に言うと、あれを停止させるか、あのプレートの中にあるスペルレジスタっていう、魔法の起動状況を保持したり変更したりする魔導素子の、識別咒名ってのを書き換えればいい」

「な、なるほど……」

「だが、あれに繋がっている赤い配線が問題だ。プレート側に異常があると、魔力の伝達命令が、あっちのLMCっていう所に誤った形で伝わって、シャドウコラプスが大暴走を引き起こす。そうなったら、この部屋全体が崩壊するほどの爆発が起きる可能性が高い」

「ばくっ!? そ、それ、凄く怖いんだけど……? わ、私で大丈夫かしら……。や、やっぱりラディがやった方が……」

 とんでもない事をさらりと言われたルーナが身震いをする。

 

「なに、手順どおりやれば問題ない。赤い配線と並列する黄色い配線があるだろ? その配線が繋がっているプレートは見えるな?」

「え、えーっと……あ、あれね。……あれをどうするの?」

 ラディウスに問われ、指さしでそれを示すルーナ。

 

「それに繋がる3つの青い配線のうち、一番左を切れ」

 と、そう言ってハサミを手渡すラディウス。

 

「き、切る!? っていうか、あれってハサミで切れる物だったの!?」

「そのハサミなら切れる。それもこれに干渉するための特殊な素材で作られた物だからな」


 そうラディウスに言われたルーナは、ハサミをまじまじと見る。

 どこからどう見ても、そこらへんの雑貨屋で売られているハサミと大差がない。

 違うのは指穴の周囲が、鼈甲(べっこう)のような物――色が青いので、鼈甲(べっこう)そのものではない事がわかる――で覆われているくらいである。


「へ、へぇ……。そ、そうなのね……。それじゃあ……」

 納得しつつ、おっかなびっくりといった感じで青い配線をパチンと切るルーナ。

 

「き、切ったわよ……。つ、次はどうするのかしら?」

「プレート側のその線を引っこ抜く。思い切り引っ張ればいい。あ、手前側のはそのままな」

「わ、わかったわ」

 ルーナは言われた通りに切った青い配線を力任せに引っ張り、引っこ抜く。


「この抜いたのはどうすれば……?」

 ルーナは青い配線を手に持ったままラディウスに問う。 


「投げ捨てれば消えるぞ」

「そ、そういうものなの?」

「まあ、これも一種の魔法みたいなもんだしな」

 なるほどと思いつつルーナは青い配線を投げ捨てる。

 すると、配線は青い粒子へと変化し、そのまま一瞬にして消失した。


 ――な、なんだか不思議な感じね……。でも、ちょっとキレイだわ。

 なんて事を思っていると、ラディウスが次の説明を始めたので、ルーナは慌てて顔を球体の方へと戻す。


「で、次にさっき言った黄色い配線を切る。で、プレート側のを抜く」

「ふんふん」

 ルーナは頷くと、先程と同じようにパチンと黄色い配線を切って、それを引っこ抜いた。

 さっき上手くいったばかりな事もあり、余裕が出てきたようである。

 

「で、プレートのそれぞれの線が抜けた場所にスロット――穴があるだろ? そこに切ったばかりの青と黄色の2つ配線に、このプラグを付けて――」

 ……と、そんな感じでラディウスの説明を受けながら、ルーナは作業を進めていく。

 そして、そんなふたりをじーっと見守るマリエルとマークス。


 ……そう言いたい所なのだが、実際には、目の前で行われている光景――あまりにも急すぎ展開についていけず、単に思考停止状態で硬直しているだけであった。

ガジェットの構造、構成は、本作冒頭で述べたようにハードウェアのそれに近いです。

まあ、魔法的な処理が入る部分もあるので、完全に一致しているわけではありませんが……


ちなみに『咒』は『呪』と同じです。

普通に『呪』と書いたら、直前に『呪い』と書いた事もあり、禍々しい感じの印象を受けたので、『呪い』とは関係がないという意味合いで『咒』の方にしました。

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