第4話 逃避行。聖堂にて。
「――というわけで……少し早いけど、メルティーナ法国へ向かう事になったのだわ」
クレリテがグランベイル聖堂の司祭にそんな風に告げる。
そして、その後ろにはラディウスたちがずらりと並んでいた。
「なるほど……事情は理解しました。早速、ゲートの開通処理を行いましょう」
司祭はあっさりとそんな風に言い、ラディウスたちの要望を聞き入れると、横に控えていた助祭に指示を出す。
「要望する側がこう言うのもあれですけど……よろしいのですか? 特に私などは、ギルドマスターでもあるのですが……」
「ええ。おふたりが騒がしく出ていった事と、マクベイン殿の言伝の時点で、何かあるだろうと思っておりましたので、準備は進めてありましたので、問題はありません」
エレナの問いかけにそんな風に返す司祭し、マクベインを見ると、視線を向けられたマクベインは、
「猊下の予想通りという事ですな」
なんて事を言った。
――猊下の予想通り?
少し疑問に思ったラディウスだったが、まあどうせ直接会う機会があるっぽいし、一旦置いておくか……と考え、特に何も口にはしない。
「そうですね、さすがは……と言ったところでしょうか」
司祭はマクベインに頷きつつ、呟くようにそう言うと、エレナの方を向き、
「そうそう、法国にギルドはございませんが……僭越ながら、私の方でギルドと繋がりのある部署に連絡を行い、ギルドと情報のやりとりが可能な状態にさせていただこうと思います」
と、ほほえみながら、エレナに対してそんな風に言葉を続けた。
「そ、そこまでしていただけるとは……。わざわざありがとうございます」
エレナが深々と頭を下げるその横で、
「ギルドと繋がりのある部署……というのは何だ?」
と、若干訝しげな口調で問うカルティナ。
その言動からは、自身の母親――になる予定の人物――に、危険が及ばないだろうかという警戒の思考が見て取れた。
「えっとね……法国って入国審査――入るための条件が厳くて、そう簡単に入れない事もあって、ギルドを設置する意味がないからと、設置してないんだけど……それでもなんらかの理由――例えば誰かの依頼とか――で、一部の冒険者とか傭兵とかはやってくるでしょ?」
「ふむ……。まあそうだろうね」
説明と問いの言葉を紡ぐセシリアに対し、カルティナがそう答える。
「そういった人たちの為に、ギルドの代わりにギルドと同じ役割をする所……『法剣聖省』っていうのがあるのだわ」
「うん。法国中枢――大聖堂内に存在する部署とはいえ、以前ギルドマスターだった人が担当、運営しているから、ほとんどギルドと変わらないよ」
セシリアがクレリテに続く形でそんな風に説明すると、カルティナは顎に手を当て、
「なるほど。そのようなものがあるのか」
と、納得した様子で返す。
「その存在自体は知っていましたが、こうして直接関わる事になるのは始めてですね……。なにしろ、カレンフォートのギルドに、法国が関係するような依頼が舞い込むような事は、皆無と言っても過言ではありませんし」
「ああ。たしかにそうだな」
エレナの言葉に同意するように頷くレインズ。
「ところで……ラディウスさんは、そもそもどのような用件で法国へ?」
「あ、そうそうそれそれ。私も良く知らないんだよね。レスティア村で、魔物の群れを退けた時に、枢機卿様と何か話をしていたのは知ってるけど……」
オードとルーナのそんな問いかけに、
「ああ。この場なら話しても問題はないか。――大聖堂の地下にある大封印の解析……可能なら、封印解除だ。そういう意味では、ルーナ辺りにも手伝ってもらうかもしれないな」
と、そうラディウスは答えるのだった。
というわけで(?)……この節は今回で終わりです!
次の話からは、メルティーナ法国が舞台になります!
更新は明後日、木曜日の予定です!(……多分、大丈夫なはずです……)




