第1話 逃避行。城壁へ向かう一行。
「――ビブリオ・マギアスの気配がまったくねぇな」
「どうやら、完全に騙されてくれたみたいだね」
レインズとセシリアがそんな風に言う。
「ま、セシリアの情報操作を極限まで再現して、かなり見破られにくくしておいたからな。そうそう簡単にバレたりするような事はないはずだ」
ラディウスはセシリアにそう告げると、マリス・ディテクターを発動する。
しかし、周囲の悪意を持った存在は、全て地上や真逆の方向ばかりで、地下のラディウスたちのいる辺りには一切いなかった。
「今の所、地上にいる連中と接触しなければ大丈夫な感じね」
ラディウス同様、マリス・ディテクターを使って周囲を探っていたルーナがそんな風に言う。
「ああ、そうみたいだな。ただ……。そう簡単にバレたりするような事はないとはいえ、腕輪そのものを発見されたら、一発でアウトである事に変わりはないし、時間の問題だ。現状を過信するのは危険だ」
――しかし……今の所は本当に全く動きに変化はないな。
まだ腕輪を発見されていない、あるいは発見されてはいるが、情報伝達が不十分……といった所か。
どちらにせよルーナの言う通り、地上にいる連中に発見されさえしなければ、こちらの位置がバレる事はないと考えていいだろう。
ラディウスはそう結論づけ、ルーナに頷きつつ答える。
「そうだな。ただこの先の、どうしても一度地上に出る所にも連中はいる。そこで見つからないようにする必要があるが……封鎖していたりした場合は厳しいな……」
「ふむ……。その場合は最悪速攻で仕留め、バレる前に城壁へ駆け登る必要があるやもしれぬな」
「その時は任せるのだわ。こっそり瞬殺するのは得意なのだわ」
カルティナとクレリテがそんな事を言う。
セシリアも言葉にはしないが、頷いて同意を示していた。
それに対し、ルーナが、
「それはそうかもしれないけど、そういう事態にならないのが一番よねぇ……」
なんて事を言って肩をすくめた。
それを見ながらラディウスは、かつての記憶から一抹の不安がよぎった。
――こういうのを『フラグ』って言うんだったよな……。嫌な予感がするぞ……
◆
――ほら、やっぱりな……
ラディウスは心の中で嘆息しつつ、地に倒れ伏すビブリオ・マギアスの構成員を、ルーナと一緒に見えづらい場所に隠す。
「……結局、倒す事になったわね……」
そんな風に呟くルーナに対し、
「螺旋階段の入口を塞がれていた以上、始末するしかなかったのだわ」
「そうそう、こればっかりはどうしょうもないよ。速攻で抹殺するしかなかったよ」
と、そう返すクレリテとセシリア。
こちらも手際よくビブリオ・マギアスの構成員を見えづらい場所に隠している所だ。
そして、言うまでもなく真っ先に――それも状況を把握するなり、思案も躊躇も一切せずに――飛び出していって、構成員たちを瞬殺したのは、このふたりである。
そんなふたりの言葉に、周囲を警戒していたカルティナが、
「……ふたりとも、もう少し他に方法がないか考えても良かったのではないだろうか……」
なんて事をちょっと呆れ気味に言い、その後ろでオードとカチュアが苦笑していた。
「……認識阻害や忘却の魔法を使うとか他に手はあった気もするけど……まあ、効かなかった可能性もあるし、倒すのが一番手っ取り早かったと言われれば、そうねとしか言えないわね」
肩をすくめつつそんな風に言うルーナに対し、
「ま、そうだな。……だがこの状況、奴らが察知していないとは思えない」
と返しつつ、マリス・ディテクターを使うラディウス。
すると、案の定ラディウスたちのいる方へと一斉にビブリオ・マギアスの構成員たちが動き出しており、同じくマリス・ディテクターを使っていたレインズが、同意の言葉を口にする。
「ああ、一斉にこっちに向かってきてやがんぜ」
「――オードさん、カチュアちゃん、走りますけど大丈夫ですか?」
「ええ、問題ありませんよ」
「同じく問題ありませんです!」
エレナの問いかけに対してオードとカチュアがそんな風に答え、それを聞いていたラディウスが皆に告げる。
「よし、なら一気に行くぞ! カチュア、レビテーションの方の発動は任せた!」
その言葉にカチュアは、「はいです! 任せてくださいです!」と返し、力強く頷いてみせるのだった。
実の所、カレンフォートからの脱出に関しては、次で終わります。
しかし、この節は『逃避行』なので、その先まであります。
というより……4章はこの節がラストなので、次の章の舞台まで一気に向かいます。
次の章の舞台は……まあ、ここまで何度も名前が出てきているので、バレバレですよね……
といった所で、また次回! 次の更新は明後日、木曜日の予定です!




