第12話 呪物と常駐魔法。渡された腕輪。
カチュアが周囲を見回すと、そこはカレンフォート市にある冒険者ギルドのギルドマスターの部屋だった。
――こちらへ戻って来たという事は、完成したということでしょうか……です。
カチュアはそう思いつつラディウスの方を見上げると、ラディウスは何事もなかったかのように、
「広域のグラビティコントロールは、こっちのガジェットだな。これで発動可能だ」
と、そんな風に告げてガジェットを皆に見せる。
「うわぁ……なんだかややこしい術式ねぇ……。一応理解は出来るけど、作ろうとしたら数日かかりそうだわ」
ラディウスが見せてきたガジェットを眺めつつ、そんな風に言うルーナ。
そして、それに続くようにして、
「そもそも……グラビティコントロール自体が割とレアな代物ですからね。遺物として見つかるガジェットでこれが組み込まれている物は、まずお目にかかれません」
「その通りなのだわ。実際、私の持っているグラビティコントロールのガジェットもレア物なのだわ」
と、オードとクレリテがそんな風に言う。
――うーん……ルーナですら、数日かかるものをあの短時間で完成させるとか、さすがはラディだよねぇ……
あまりにも早すぎて、ちょっとばかし消化不良というか、暴れ足りないけど……まあ、続きはこっち側での問題とやるべき事が一通り片付いてからだね。
セシリアはそんな事を思いながら、
「あとは一気に動くだけかな? クレリテ、マクベインさんはどこに待機しているの? 途中で下りちゃったから良くわからないんだよね」
と、クレリテの方を見て問う。
「城壁の外――レグナリア川の川岸なのだわ。カレンフォート市から離脱したらすぐに離脱出来るのだわ」
「レグナリア川か。ちょうど飛び降りる想定の場所から近いな」
クレリテの返事を聞き、ラディウスがそんな風に言う。
「ちなみに……市外へ続く道は、ビブリオ・マギアスに完全に抑えられているようです。ギルドの者から連絡がありました。普通に市外へ出ようとしたら、一気に襲われるでしょうね」
「……やっぱりか。強引に突破する事自体は出来るだろうが、何も知らない市民を巻き込む事になるな。かと言って市民を秘密裏に移動させるのは難しい」
「はい。……諸々、総合的に考えると、やはりラディウスさんの考えている方法が、最も妥当な脱出手段であると思います」
「ああ、そうなるな」
エレナとレインズがそんな風に話す。
「もっとも、城壁への移動を見つかってしまった場合は、やはり面倒な事になる。慎重さが必要になるね、これは」
「そうだな。……特に奴らに動きがバレたり、奴らの居る場所へ誘導されるのだけは避けないとまずい」
カルティナに対してラディウスがそう答えると同時に、カチュアがレインズに問う。
「あ、レインズさんひとつ聞きたい事がありますです」
「ん? 聞きたい事?」
「はいです。レインズさん、最近ラディウスさん以外の誰かから、ガジェットを受け取った事とかって、あったりしますですか?」
「誰かから受け取ったガジェット……? ああ、あの野郎――ジェイクスから防御障壁の常駐魔法が付与された腕輪を貰ったな。遺跡で見つけた余り物だとかなんだとか言っていたが……」
レインズはそう言いながら腕まくりをし、腕輪を見せる。
そのやり取りを見ていたラディウスとルーナが顔を見合わせて頷き、ルーナが呟く。
「……間違いなさそうね。――ヘイジーミスト……極小範囲」
次の瞬間、椅子に座るレインズの身体が唐突に弛緩したかと思うと、その目もボーッとした焦点の定まっていない、そんな目になった。
ようやく本節の『呪物と常駐魔法』の入口に辿り着きました……
と言っても、解呪回りの話はそんなに長くならない予定です……多分。
ま、まあ……そんなこんなでまた次回! 更新は明後日、木曜日の予定です!




