第1話 魔工士は見る。そして気付く。
マリエルの案内で、マリエルの兄が寝ている部屋へと通されるラディウスとルーナ。
マリエルの兄は、誰が見ても衰弱しているのがわかるようなそんな顔で、ベッドに横になっていた。
「おやマリエル、戻ってきたのか。……ん? そっちにいるのは……ルーナちゃんに……えーっと、どちらさま?」
マリエルの兄が、ベッドに横になったままの状態で、顔だけラディウスの方を向けて問う。
「あ、マークスおじさん、この人はウチの宿に宿泊中のラディ――ラディウスっていう名前の魔工士で、治療に特化したガジェットを持っているらしいわ。……というか、大分やつれている感じだけど……大丈夫なの?」
ラディウスの代わりにルーナがそんな風に説明し、心配そうな表情を向けると、マリエルの兄――マークスは上半身を起こすと、少しだけ微笑んで、
「まあ……正直言えば、大丈夫ではないけれど……でも、今の所はマリエルの薬草のお陰で安定しているよ」
と、言葉を返した。
「――それで、ラディウスさん……でしたかな? 治療に特化したガジェットを持っておられるという話でしたが……」
マークスがラディウスの方に顔を向けて尋ねる。
「はい。もしかしたら役立つかもしれないと思いまして、ルーナさんにここまで案内していただきました」
そう答えながらマークスに近づいた所で、
「ん……?」
ラディウスは妙な違和感を覚え、マリスディテクターを発動する。
と、マークスの周囲に紫色の靄が纏わりついているのが見えた。
「うおっ!」
急に驚きの声を上げたラディウスに、ルーナは首を傾げ問いかける。
「ラディ? 急に驚いてどうかしたの?」
「ルーナもマリスディテクターを使ってみろ」
ルーナの方を見てそう促すラディウス。
「なんだか良くわからないけど、とりあえず使ってみればいいのよね。えーっと……『マリスディテクター・改』ッ! ……特に何も変わらないような……?」
魔法を発動したルーナがラディウスの方を見る。
「俺の方を見ないで、マークスさんの方を見てみろ」
そう言われたルーナはマークスの方へと顔を向け――
「一体なにが……って、ちょっ!? えっ!? ま、待って待って! な、なんなのよ、これっ!」
ラディウス以上に驚き、大きな声を上げるルーナ。
「……なんて声を上げているのよ、ルーナ」
マリエルはそう言ってため息をつき、それから小首を傾げて困惑する。
「……というか今、あなた、さらっと魔法を使ったわよね……? どうなってるの?」
「あ、うん、ラディから戦闘用――タクティック・ガジェットを借りてるのよ」
ルーナがマリエルに対してそう説明するも、マリエルはその説明で更に困惑した。
「ラディウスさんのタクティック・ガジェット……? え? それこそ、どうして?」
家庭用のリーベン・ガジェットもそれなりの値段がするのだが、戦闘用のタクティック・ガジェットはそれ以上――非常に高価な物であるというのが、一般的な認識である。
そして、それゆえに所有者は肌見放さず持ち歩いている事が多い。
……つまり、マリエルの感覚からすると、そんな高価な代物をさらっとルーナに貸してしまうラディウスの行動が、理解出来なかったのだった。
どうにも区切りが悪いので、微調整し終えたら本日中にもう1話いきます。