第4話 第3の転移者。カチュアたちと古の時代。
「このような感じで、身体の一部に鱗があるくらいなんですよです」
と言うカチュアのその腕を、まじまじと見つめるセシリア。
「ほえぇ、なるほどねぇ……。これは良く見ないと分からないね。うん」
「あの研究所で誕生した獣人――ハーフの大半は、こんな感じなのです。もっとも、なるべく純粋な人間に近づけるという研究を行っていた事を考えると、当然と言えば当然な気もしなくはないのです」
「はいですです。あと、研究所といっても、かなり大雑把でしたし、です」
メルメメルアの言葉に同意するように頷き、そう言ったカチュアに対し、ラディウスが疑問を抱く。
「大雑把?」
「研究所というと、狭い部屋とかに閉じ込められて、必要に応じて実験に使われるイメージがあるかもしれないのですが、その研究所は一つの人工島――あ、島といっても、帝都30個分くらいの広さがあって、山や川、森や湖なんかがあったです――を使ったもので、私たちはその人工島から出られない以外は、自由だったのです」
「研究員さんが行商人のように物を売りに来たりもしていましたです。まあ、貨幣という概念がなかったので、物々交換でしたが、です」
メルメメルアとカチュアがそんな風に説明する。
――帝都30個……。地図で見た帝都の大きさから逆算すると、大体向こうの世界の王国領の7割から8割……おおよそ3/4って所か。かなり広いな。
そこに山や川、森や湖がある……か。
それはもう、大陸のミニチュア……世界の一部を模した巨大な箱庭といっても良いレベルだな。
ラディウスはふたりの説明にそんな事を思い、そして問いの言葉を口にする。
「それは……その研究所は、一体何を研究していたんだ……? 聞いた感じだと、単純に巨大な箱庭を作って、その箱庭での生活の様子を観察していたようにしか思えないが……」
ラディウスの問いかけに対し、メルメメルアは首を横に振り、
「それは分からないのです」
と返すと、しばし思案を巡らせた後、推測の言葉を続ける。
「でも、ラディウスさんが言ったように『観察』が目的だったのではないかと思うです。『観察』する事が『研究』である……というような事を、言っていたのを聞いた事があるのです」
――ふーむ……。そもそも、彼の時代に行われていた研究の大半は、『災厄』をどう乗り越えるかという物だった。
そして、メルメメルアは封魂術で今の時代へとやってきた。それはカチュアも同じだろう。
とすると、人工島を作ってまで大規模に行われていた研究となると、ほぼ間違いなく封魂術に関するもの、あるいは封魂術が上手くいかなかった時の代替案のためのものであった可能性が高い。
だが……それが一体なんなのかが……駄目だな、情報不足すぎてさっぱりわからん。
……まあ、色々と気にはなるものの、この件に関しては、今ここでこれ以上考えても仕方がない話ではあるな……
ラディウスがそんな結論を出した所で、メルメメルアが、
「ところで……カチュアちゃんはどうやってここに来たです? それもラディウスさんやセシリアさんと面識があるような感じなのが、とても気になるのです」
という、もっともな疑問を口にした――
今回は本筋から離れた古の時代の話でした。
ふたりの過去とその過去である古の時代に行われていた事の説明はいずれ重要になるので、どこかでする必要があったのですが、ちょうどふたりが揃ったこのタイミングで入れてみました。
もっとも、あまり長々とやるとあれなので、触りの部分だけにしましたが……
結果、逆に良くわからない状態のままになってしまった感も……
ま、まあ……そんなこんなで、また次回! 更新は明後日、木曜日の予定です!
 




