第2話 第3の転移者。聖木の館の在る地は。
「――ちょっと待ってくれ。そのサナトリウムの名前って……もしかして、『聖木の館』じゃないか?」
「あ、はい、そうですです。でも……どうしてその名前を知っているのですか……です? もしかして、ラディウスさんやセシリアさんも未来から来た人なのですか……です?」
カチュアがもっともな疑問を口にする。
――ぐぬぅっ。
た、たしかにその通りではあるのだが……ここで肯定してしまうと、セシリアも混乱する事になって収集がつかなくなるよなぁ……確実に。
仕方がない、ここは敢えて否定しておくとしよう……
そう考えながら、ラディウスは首を横に振り、
「いや、その『聖木の館』は未来の世界にあるんじゃない。――並行世界にあるんだ」
と、カチュアの顔を見て告げるも、当然のように『並行世界』の意味が分からず、
「へい……こう……せかいですかです?」
そう口にしつつ首を傾げるカチュア。
それに対してラディウスとセシリアは、自分たちの知っている範囲の事を説明し始める。
……
…………
………………
「えっと……つまり並行世界というのは、別の歴史を歩んだ同じ世界、という事ですか……です?」
「うん、そういう事だね。大陸の形も名前も一緒だけど、そこにある国や文化に違いがある……って感じかな。で、今私たちがいるのが、高度な発展を遂げた歴史を歩んだ世界――『聖木の館』がある世界、というわけ」
セシリアがそんな風に言いながら、人差し指で足元を指し示す。
「まあ、私も最初は訳が分からないで困惑したけどね」
「たしかに驚きましたです。それに、今でも少し理解が追いついていませんです」
肩をすくめるセシリアに対し、カチュアは頷いてそう返す。
そして、まるでそこにガジェットが存在しているかのような感じで、胸元に軽く手を添える仕草をし、
「それに……まさか、時を巻き戻す以外に、こんな機能があるとは思ってもいませんでしたです」
と、言葉を続けた。
「でも、並行世界間移動って、最初に発動したら後は任意に使えるイメージだけど、カチュアちゃんはそうじゃなかったんだね」
「多分、任意で移動可能になる条件みたいなのがあるんだろうな。他の同一ガジェットと共鳴するとか、そういった何かが。――実際、ヴィンスレイドなんかはこっちの世界では死んだ事になっているしな。おそらく、俺たちの世界へと転移した後、こっちの世界には一度も戻ってきていないんだろう」
セシリアが口にした疑問にそんな推測を語るラディウス。
そして、お手上げといった感じで両手を開き、続きの言葉を紡ぐ。
「……まあ、どうしてそんな事が起こるのかとかは、正直さっぱりわからんが」
「それより今は、これから起きる問題をどうにかする方が先だ」
そうラディウスが告げた直後、ガチャリとドアが開き、
「ラディウスさん、少し気になる事が――って、何か人が増えてるですっ!?」
という、ある意味当然とも言えるメルメメルアの驚きの声が発せられた。
だが――
「……って、あれ?」
「え?」
メルメメルアとカチュアが顔を見合わせ、ほぼ同時にそんな言葉を口にする。
そして、
「えっと……も、もしかして、カチュアちゃん……です?」
「そ、その姿、メルおねーちゃんだったりしますです?」
という問いの言葉を、互いに投げかけたのだった――
というわけで、割と久しぶりとなるメルメメルアの登場です。
片方の世界での話が長くなると、もう片方の世界の人物はどうしても出番の間が空いてしまうんですよね……。なんとかしたい所ではありますが……
とまあ、それはそれと次回の更新ですが……明後日、日曜日の予定です!




