第6話 村への道の果て。ルーナの母親との遭遇。
「あ、お母さん!」
ルーナが女性――ルーナの母親の存在に気づき、ラディウスと母親のいる方へと走ってくる。
「こんなところまで来て、どうかしたの? もしかして、町で急病人でも出たとか?」
「ううん、そうじゃないわ」
ルーナはそう母親に返すと、ラディウスの方に顔を向け、
「この人――ラディは今、ウチの宿に泊まっているんだけど、治療に特化したガジェットを持っている魔工士? みたいでね。もしかしたら、なにか役に立てるかもしれないって言うから、案内してきたのよ。……あ、ラディ、この人は私のお母さんね」
と、説明の言葉を続けた。最後はラディウスに対するものだ。
――どうして、魔工士のところで首を傾げたんだ……?
って、よく考えたら俺は魔工士なんだろうか……?
魔導博士……は、時を遡る前の肩書きだし……。うーん……
ラディウスがルーナの説明を聞きながら、そんな割とどうでもいい事を悩んでいると、
「なるほどねぇ……。それで、どうしてあそこで言い争いを……?」
という、もっともな疑問をルーナに投げかけるルーナの母親。
ルーナはそれに対し、バツが悪そうにしながら答える。
「えーっと、まあ……来たはいいんだけど、お母さんがいなかったから、入れてくれなくて……それでこう……あれこれと……」
「はぁ……。いくらなんでも、連絡もなしにいきなり来たらそうなるわよねぇ……」
と、ルーナの母親が自身の娘の行動に対し、ため息混じりにそう言った。
それを聞いてラディウスも、同感だと心の中で呟く。
「まあ……いいわ。えっと……それで、あなたが今、ルーナの言っていたラディさん……ですよね? ――治療に特化したガジェットを持っておられるとか? あ、まだ名乗っていませんでしたね……すいません。――私はマリエルといいます」
「あ、はい。ラディウス・アーゼルと言います。それと……ガジェットですが、色々と持っています。というのも、俺はガジェットを使った診断や治療を少しかじっていまして……。それもあって、お役に立てる事があるかと思いまして、こうしてルーナさんに案内していただきました」
「――ガジェットを使った治療を行う『魔導医師』という職業の人がいるという話を、以前聞いた事がありますけど……もしかして、あなたが?」
「いえ……。……一応、それと同等の知識と技術は持っていますが、魔工士です」
マリエルの問いかけに対し、ラディウスは一瞬どう答えるべきか迷ったが、とりあえずそう答えておく事にした。
ちなみに魔工士というのは、ガジェットの鑑定や解析、制作などを行う技師の事で、中には店を構えてそれらの売買や修理を行う者もいる。
「そうなのですか……」
ラディウスの言葉を聞き、そう短く答えてしばし考えた後、マリエルは、
「――正直言うと、私では兄の症状の進行を抑えるのが精一杯で、原因がまったく掴めない状態です。なので、魔法的な見地からの診断もしていただけると、取れる手が増えるので助かります」
と、そんな風にラディウスに言って頭を下げた。
それに対してラディウスが言葉を返すよりも早く、なぜかルーナが張り切った声で、
「――だそうよっ! さあ、ラディ! 早速行ってみるわよっ!」
なんて事を言い放ちながら、ラディウスの方を見た。
その様子を見ていたマリエルはこめかみに右手を添え、ため息をつく。
そして呆れた声で、
「……ルーナ、なんであなたが張り切っているのよ……。まったく、この子は……」
と、呟くように言った。
今回は、どうにも良い感じのタイトルが思い浮かばかなったです……
う、うーん……今更ながら、この節全体で前半部分が悪かった気が……