第1話 転生者は戻ってくる。31年前の世界へ。
「……っ!?」
目を開けると木の屋根が見えた。
――これは……ベッド、か? ……なら、俺は助かった……のか?
ガルディア砦で、グランベイルの生き残りらしい女に刺されたはずだが……
そう思いながらラディウスが上体を起こすと、眩しいばかりの太陽の光が顔に当たった。ちょうど良い具合に窓があったようだ。
「うおぁっ!? まぶしっ!」
ラディウスはとっさに顔を横に向けて光から逃れる。
と、そこには化粧鏡があり、自分の姿が映し出されていた。
黒髪の若い男の姿となった自分の姿が。
「んなっ!?」
ラディウスは驚きの声を上げつつ、化粧鏡に飛びつく。
そこに映っているのは、何度見ても変わらない。
黒髪の若い男――若い頃のラディウスの姿だった。
「時を遡る魔法が発動した……のか? だが、なぜ……?」
そんな事を呟いた後、今が何年何月なのかを確かめるため、ラディウスは部屋を見回す。すると、視線の先にカレンダーがあった。
近づいてカレンダーを見ると、そこには星煌歴968年10月と記されていた。
「968年だと!? って事は、今の俺は18歳って事か!?」
驚きに自然と声を出してしまうラディウス。
――まさか、31年も前に戻るとは……。どうして時を遡る魔法が発動したのかはわからないが、ここまで戻ったのなら全てをやり直す事が出来る……
魔法が発動した理由はさっぱりだが、自分にやり直すチャンスが訪れた事を理解したラディウスは、この時の自分が何をしようとしていたのかを思い出す。
窓から見えるのは別の建物の屋根や壁だけだが、3階建てや4階建てといった大きめの建物が多い。レンガ造りがメインだが、金属による補強なども見られる。
また、宿や商店と思しき建物の壁や、狭い道の建物と建物の間に渡された金属の梁には、ランタン状の照明装置が付けられているのが見える。
――レンガ造りを主としつつも、金属が要所要所に使われているこの感じは……王都ローダリアか?
となると……この雑多な感じは、中央大通りからかなり離れた場所――雰囲気的には、職人街区にある宿、って感じだな。ん? 待てよ? それはつまり……
そこまで考えた所で、ふとある事を思い出したラディウスは、ベッドの近くに置いてあった鞄に手をかけ、中を漁る。
「たしか……封筒が……。お、多分これだ」
目当ての封筒を取り出し、中を見るラディウス。
その封筒の中に入っていたのは、王立魔導研究所への招待状だった。
見ると、『ライナス・ヴァル・ローダス』という名前がそこには記されている。
――やはりそうか……。これは俺の知識と技術を聞きつけた王立魔導研究所のライナス所長が、俺に招待状を送ってきた奴だ。
そして今日は、それに応じるつもりで研究所へ向かおうとしていた日だ。
それに気づいた所で、ラディウスはこのまま研究所へ向かったら、また同じ結果になりそうな気がするが……どうしたものか……と考え、しばしの間、なにか良い案はないかと思索に耽る。
そして絞り出された案……結論は、
「よし、このままバックレちまおう。そうすれば俺が作ったヤバいガジェットも兵器も、この世に広まる事はないわけだからな。生活に便利なガジェットだけを作って、のんびりと暮らすとしよう!」
というものだった――
プロローグがかなり長めでしたが、本作は1話の長さを大体このくらいにする予定です。
そして、プロローグ序盤のシリアス感は、きれいさっぱりどこかへ消えました(何)