第1話 冒険者ギルドにて。ギルドマスターと地下神殿遺跡。
「色々な意味で想定外すぎるっ!」
「うむ。さすがに驚いたぞ」
「でも、言われてみると普通の受付嬢とは雰囲気が違ったわね……」
「俺はそれすら気づかなかったな。一度直接話しているのに」
なんて事を口々に言っていると、受付嬢――否、ギルドマスターが戻ってくる。
それに反応するように、全員がギルドマスターを見た。
「その様子……皆さん、私がギルドマスターである事を知ったみたいですね?」
「ええ。だけど、よくよく思い出して見ると、貴方の事はグランベイルのギルドで何度か見かけたわ。そう……ただの受付嬢が別のギルドにいるわけがないのよね」
ギルドマスターの問いかけにそう返すルーナ。
「そうですね。グランベイルには幾度となく足を運んでいますね。近い内に、グランベイルのギルドマスターを引き継ぐ予定なのですが、その辺りの都合で色々ありまして」
「そうだな。ちなみに俺が一旦こっちに拠点を移したのも、そこだ。エレナのグランベイルへの引っ越しの手伝いする必要があったし、こっちの新任ギルドマスターが俺の知り合いなもんで、その関係からあれこれやらなきゃいかん事があったりしてな……。結構長くなりそうだから、エレナと話をしてそうしたんだ」
「あ、エレナっていうのは、ギルドマスターの事だよ」
と、ギルドマスターの近くに立つ受付嬢が説明する。
「エレナ……? どこかで聞いた名前だ……」
顎に手を当てて考え込むカルティナに、
「別に珍しい名前ではありませんし、普通に聞くと思いますよ?」
そう言って首を傾げるエレナ。
エレナが言う通り、その名前は実際珍しい物でもなんでもない。
むしろ、王国では女性の名前として良く使われている程である。
「ふむ……まあ、たしかにそうか。この国に暮らしていてその名を聞かぬという方が珍しいか。……だが、何かがこう……引っかかる……」
ラディウスはそれを聞き、記憶を失う前のカルティナの知り合いに『エレナ』という人物がいたのではないかと思ったが、不明瞭すぎる上に未来の人物である可能性もあったので、敢えて口にはしなかった。
「――まあいい。それよりもビブリオ・マギアスの件について話さねばなるまい」
そう言ってエレナの名についての話を切り上げたカルティナに、皆が頷く。
そして、レインズが問う。
「エレナ、連絡したのは王国領内の全ギルドか?」
「はい。全てのギルドにビブリオ・マギアスの存在について連絡を行っておきました。王家や教会、それから国境の防衛を担う貴族や騎士の方々にも、各地のギルドを経由する形で伝わるはずです」
「王国領内には侵入してきていないと思われていたはずのビブリオ・マギアスが、既に王国領内にいると判明した以上、教会も王家――というか軍も、大騒ぎになるだろうね……間違いなく」
ギルドマスターの話を聞き、そう言ってやれやれと首を横に振るセシリア。
「ま、そうだろうな。……ところで、オードさんたちはどうして連中に捕まったのですか? どうも、少し前から見張られていた様ですが……」
「そこに関しては我々も良く分からず、なんとも言い難い所なのですが……もしかしたら、ソルムの薬液を狙っていたのではないでしょうか?」
「はいです! ソルムの薬液をあの人たちに全て奪われましたです!」
ラディウスの問いかけに対し、オードとカチュアがそんな風に答える。
「ソルムの薬液……? あれを使って魔力を回復させる必要がある程の何かを、あの地下神殿遺跡でしていた……?」
「となると、あの地下神殿遺跡に何かあるっつー事だな……。さっきは脱出を優先してしっかりと探索したわけじゃねぇし、改めて隅々まで調べてみた方が良さそうだな。まあ、ビブリオ・マギアスとの接触の可能性も十分にあり得るから、それなりの戦力も必要だが……」
ルーナの発言に対し、レインズがそう口にしてエレナを見る。
そして、
「エレナ、人員を集められそうか?」
と、問いかけた。
「そうですね……。一定ランク以上の冒険者に要請してみます。それから……市長にも伝えて、戦力兼調査役を出して貰い、共同で当たるとしましょう」
しばし考えた後、エレナがそんな風に言うと、
「あ、それなら……『枢機卿』の代行として『剣の聖女』から要請された、って事にすると良いと思うよ」
なんて事を告げるセシリア。
エレナはそれに納得し、頷いてみせる。
「なるほど……。たしかに市長も教会の人間ですし、とても効果的な気がしますね」
「――今日中に、少しでも調査しておきたい所だが……もうすぐ日が暮れるし、さすがに厳しい……か?」
というラディウスの言葉に、
「いえ、むしろ半日で終わるような依頼を受けた冒険者たちが戻ってくる時間帯ですし、集めやすくなります。それと、市長にも今から情報伝えれば、すぐにでも動いてくれると思いますので、日を跨ぐ前にはどうにか調査に行けるようになると思います」
と、エレナ。
「なるほど……。ならば、俺たちもこのまま待機するか」
というラディウスの言葉に、ルーナ、セシリア、カルティナが頷いた。
思ったよりも長くなったので、一旦ここで区切りました。
やや中途半端な感じですが、他に区切りやすい場所がなかったもので……
という所で、また次回! 更新は明後日、火曜日の予定です!




