第5話 村への道を進み至る。レマノー村。
「――西162フォーネの所に、ファングウルフが2体いるけど……こっちには来そうにないわね」
「まあ、そうそう突っ込んで来られても困るしな」
ラディウスはそう答えて肩をすくめる。
――だが、なんであいつは、どうしてあんな風に一直線に動いたんだ? かと思えば、道に出た途端、困惑した様子だった。もっとも、その後再び俺たちの方に突っ込んできたが……
ラディウスがそんな事を思案していると、
「あ、ここを左よ」
と、ルーナがそう言って、馬車1台がギリギリ通れそうな細い脇道を指さす。
「なるほど……ここの立て札にも『レマノー村入口』と書かれているな……。とはいえ、何も考えないで進んでいたら、見落としそうだ」
「さっきも言ったとおり、この道はあくまでもヴィンスレイド伯爵のお屋敷へと繋がっている道だからね。ここからレマノー村まではこんな感じなわけよ。あ、ちなみにここまで来たら10分もかからないわ」
ラディウスの言葉にそう返してくるルーナ。
――10分もかからない距離なら、村を経由するように道を作れば良かったんじゃなかろうか……
ラディウスはそんな事を思ったが、なにか理由があるのかもしれないと考え、口にはしなかった。
細い脇道に入って5分ほどで、道の先が明るくなる。
「お、森を抜けるっぽいな」
「ええ、あそこから先は丘陵地帯ね。村も見えるはずよ」
ラディウスとルーナがそんな事を話しているうちに森を抜け、なだらかな丘陵が視界いっぱいに広がった。
「お、たしかに村が見えるな」
ラディウスがそう言いながら視線を道の先に向ける。
すると、大きな湖があり、その湖畔に家々が建ち並んでいる場所――村があった。
さらによく見ると、湖畔沿いに延々と畑が広がっている。
畑は名産であるフィルカーナが主に植えられているが、薬草など他の物が植えられている場所もちらほら見られる。おそらく、畑の地力を回復させるような意味合いがあるのではないだろうか。
「王都で話を聞いて、どんなものかと思っていたが……たしかにこれはフィルカーナの産地って感じだな。それに湖もきれいだし、療養にはとても良さそうな場所だ。……えーっと、それで件の商人と、ルーナのお母さんがいるというのは、どこなんだ?」
「あそこよ。あの水色の屋根のお屋敷がそうよ」
ラディウスの問いにそう答えながら、指をさすルーナ。
「なるほど、あそこか。……ちなみに、直接尋ねても大丈夫なのか?」
「あ、うん、全然問題ないわよ。さ、行きましょ」
などと言っていたのだが……
「なんで駄目なのよぉーっ!」
ルーナが屋敷の番をしている男女2人組の冒険者に対し、怒りの声を上げた。
「なんでと言われても、連絡もなくいきなり尋ねてきた人間を、勝手に通すわけにはいかないからに決まってるだろ」
「だからぁー! 私はここに滞在している、薬師のマリエルの娘だって言ってるじゃないのよぉー!」
「いえ、だから……そのマリエルさんが薬草園に行っていて留守で、本当かどうかの確認が取れないのよ。お休み中の旦那様に尋ねるわけにはいかないし……」
不毛な感じのやりとりを繰り広げるルーナたちを遠目に見ながら、
「……まあ、身元を証明出来る人間が不在ならこうなるよな……」
と、ため息交じりに呟くラディウス。
さてどうしたものかと思っていると、ラディウスの後方から、
「あら? ルーナ?」
という声が聴こえてくる。
「ん?」
ラディウスが振り向くと、そこには腰辺りまである長い髪を持つ、どことなくルーナに似た容姿と雰囲気を漂わせつつも落ち着いた感じのする、そんな女性の姿があった――
そんなこんなで村へ到着です。