第4話 あの時の親子を探して。カレンフォートでの遭遇。
「やっぱりあの市長、苦手……。話長すぎ……。しかもほぼ街の自慢話だし……」
市庁舎の外に出た所で、うんざりした表情でそんな風に言うセシリア。
「まあ、その気持はわからんでもない。自分の自慢ではない所はまだいいが……それでも延々と聞かされるのはなかなかに厳しい話だな」
「そうね……。それに関しては異議はないわ。っていうか、同じような話を繰り返しすぎなのよねぇ……」
同意するようにそう口にするラディウスとルーナ。
こちらもセシリア程ではないが、うんざり気味の表情だ。
「まあ……とりあえず警邏兵の協力は得られる事になったし、よしするか……」
と言ったラディウスに対しセシリアは、ちょっとだけため息をつきながら、
「そうだね。それじゃあ早速、詰め所に話を聞きに行ってみる?」
と、気持ちを切り替えて、そんな問いの言葉を返す。
「ああ、そうだな。行くだけ行ってみるとしよう」
◆
「――そういえば、ここらへんに出店していたんだよなぁ……」
詰め所への道すがら、先日オードとカチュアに出会った場所に差しかかった所で、そんな風に呟き、立ち止まるラディウス。
「何か手がかりになりそうな物が、落ちていたり残っていたりは……うーん、しなさそうだね」
「そうね。何らかの魔法が使われた形跡もないわ」
セシリアとルーナが、それぞれその場所を調べながらそう告げる。
――ま、そう簡単に手がかりなんて掴めるわけないよなぁ……
なんて事をラディウスが思っていると、
「ん? ラディにルーナではないか。こんな所で会うとは奇遇だな」
という声がラディウスの耳に届く。
――この声は……カルティナか? どうしてこんな所に。
「カルティナ? どうしてここに貴方が?」
ラディウスよりも先にルーナが口を開き、そう問いかけた。
「昨日、グランベイルの冒険者ギルドに用があって訪れた時に、ギルドマスターから直接頼み事をされてな……。先の伯爵の件もあって、グランベイルの冒険者が人手不足なのは知っていたから断るのも悪いと思い、テンポラリ・パーティを組んでその頼み事を解決してきた所なんだ」
「頼み事……? しかもギルドマスターから?」
ギルドマスターからとは随分と重要そうだが……と思いつつ問うラディウス。
カルティナはそれに対し、さして重要ではないと前置きして、内容を語る。
「ギルドマスターからの……というと大事に聞こえるかもしれないけど、実際にやった事は単なる魔物の生態系調査にすぎないんだ」
「魔物の生態系……。それって要するに、魔物の生息分布を調べた……って事かしら?」
今度はルーナがそんな風に問いかけると、カルティナはそれに頷き、
「ああ、そういう事さ。レスティア村で起きた魔物の大群が襲撃した事件――魔軍事変を受けて、念の為、王国領内全域の魔物の生態系――生息分布に異常が出ていないか調べる事にしたらしい。で、私にグランベイルからカレンフォートにかけての調査を頼んできた……とまあそういうわけだ」
と、言った。
「あー、なるほど……」
というラディウスの言葉に続くようにしてセシリアが、
「でもあれって自然に起きたわけじゃなくて、人為的……っとと、その事はまだ公表していないんだった」
などと口を滑らせ、慌てて自らの口を手で覆った。
そう――無用な混乱を避けるために、『人間』が意図的に引き起こしていたという事実は伏せて発表されていたりする。
まあ、口を覆う前に公表していないと言っている時点で、既に色々と手遅れではあるのだが……
カルティナはあまり深く聞くべきではないだろうと考え、
「ふむ……魔軍事変の当事者たちのみが知る真実があるというわけか。いや、そもそも聖女セシリアが共に行動している時点で、あの事件の何かを調査していると考えるべきだったかな」
と、そんな風に言う。
「あ、それは違うわ。私たちは別の件でここにやって来たのよ」
「別の件?」
ルーナの言葉に首を傾げるカルティナ。
「実は――」
ルーナは、もしかしたら冒険者経由で何らかの情報が得られるかもしれないと考え、カルティナに対し、これまでの経緯を説明する事にしたのだった――
というわけで、久しぶりにカルティナの登場です。
……よく考えると、本当にかなり久しぶりな気がします……
さて、そんな所で次回の更新ですが……明後日、日曜日の予定です!




