第2話 大封印と呪法。そして転移ゲート。
今回、少し長めです。
――レミステリア大聖堂……
となるとメルティーナ法国か……。認識が誤っていなけば、エレンジール王国の更に先だったはずだ。
この国からだとエレンジール王国を抜けるか、内海へ出て船で行くかになるな……。まあ、どちらのルートをとるにしても、かなりの日数がかかるはずだ。
地図を頭の中に描き、そう思考しつつラディウスは言う。
「大封印というのがどういう物か興味がありますし、協力したい所ではありますが……あまり、グランベイルの店――工房を閉めておくわけには……」
ラディウスが思案した通り、メルティーナ法国までは結構な距離があるので、数日で行き来する……というのは不可能である。
その間、ずっと工房を閉めっぱなしにするわけにはいかない……と、ラディウスはそう思ったのだ。
「それに関しては承知してるから安心して欲しい。というのも、実は我々神剣教会が所有する『転移ゲート』を特別に使用する許可を教皇猊下からいただいていてね。これを利用すればそこの問題は解決するのではないだろうか」
「転移ゲート……」
アルディアスの言葉を聞き、ラディウスはそう短く呟き、思案を巡らせる。
――まさか、転移ゲートが動作する状態で残存していたとはな……
時を遡ってくる前に見つけたそれらは、既に壊れている物しかなかったから、まともに動作するものなど残っていないと思っていたが……動作する物は、神剣教会が秘密裏に確保していた、という事か。
「たしかにそれがあれば、ゲート間の行き来は一瞬ですが……グランベイルの近くに存在しているのですか?」
「うむ。実はグランベイルの聖堂に存在しているのだよ」
ラディウスの問いかけにそんな風に返してくるアルディアス。
ラディウスはその言葉に驚き、目を瞬かせた後、
「え? 聖堂……ですか? あんな所にゲートが?」
と、問いかける。
「はい。――グランベイルにあのような立派な聖堂が建てられた真の理由は、ゲートの存在を周囲から隠すため……なのでございます」
マクベインがアルディアスに代わりそう説明し、そこにアルディアスが付け加えるように言葉を紡ぐ。
「ついでに言うのであれば、神剣もそのゲートの近くにあったものでね。――昨日、聖女セシリア殿が言っていた通り、神剣が『古の王の剣』であるとするならば……グランベイルにはかつて、その王の居城、あるいは離宮があった可能性もある」
「な、なるほど……。たしかに王の住まう場所であれば、ゲートがあるのも頷けるというものです」
ラディウスはそう返しながら、時を遡る前の世界でグランベイルが消滅したのは、その辺りの――ゲートが存在したり、古の王に関する物があったといった事も、遠因になったのではないか……と、そんな事をふと思う。
「しかし……それを自分に話してしまっても良いのですか? まだ受けると受けないとも言っていないのですが……」
「うむ。たしかに秘中の秘ではあるが……ラディウス殿になら、教えても問題はないであろうと私は判断した」
ラディウスの疑問にアルディアスはそう答えると、そこで一度言葉を区切り、一呼吸置いてから、
「そして、その上で改めて問わせて欲しい。……どうであろうか? 『大封印』の解除を試みては貰えぬだろうかね? 無論、成功するに越したことはないが、失敗したからとて誰も責めぬから心配は無用。なにしろ、今まで誰一人として解除に成功した者はおらぬのだからね」
と、問いの言葉を続けた。
アルディアスの再度の問いにラディウスはしばしの思案の後、意を決したような表情で言葉を紡ぐ。
「……そこまで言われると、逆になんとかして解除してみたくなりますね。……わかりました。レミステリア大聖堂に赴きましょう」
「おおそうか! それでは早速――」
そう言ってアルディアスは喜びの表情を見せる。
……が、すぐにその表情が陰り、
「――と言いたい所なのだが、すまぬが半月ほど待って欲しい。頼んでおきながら申し訳ないのだけど、ゲートの開通には慎重さが求められる関係で、どうしても手続きやらなにやらに時間を要するものでね……」
というため息混じりの言葉を、こめかみに手を当てながら発した。
ラディウスは、まあ秘中の秘だしな……と思いつつ、
「そこは……まあ、なんとなく理解出来ます……。ただ、こちらもやっておきたい事や準備などがあります関係で、逆に開通してすぐに行けるかと言われると、その時になってみないとわからい部分があるのですが……そこは大丈夫でしょうか?」
そんな風にアルディアスに対して言う。
「ああ、そこは気にしないで欲しい。こちらが頼む側である以上、ラディウス殿の都合を優先させて貰うよ。そもそも……長い間放置されていた物だし、そこまで急を要するような理由があるわけではないからね」
アルディアスはラディウスに対しそう答えると、マクベインの方へと顔を向ける。
「はい。私かクレリテ様、あるいはセシリア様のいずれかが、ラディウス殿にお伝えに参りますので、その際にご都合の良い日をお教えいただければと思います」
「わかりました。ご配慮、感謝いたします」
と……そんなわけで、ラディウスはメルティーナ法国へと赴く事になったのだった。
今回の話、2話と3話で2つに分けようかどうか迷ったのですが……分けると、区切る場所が中途半端になってしまい、3話が大分短くなってしまうので、一気に書いてしまいました。
その為、この2話でこの節は終わりです!
というわけで……次の話からは新しい節となり、メルティーナ法国へ向かう前の準備期間の話になります。
そして、その次回の更新ですが……明後日、土曜日を予定しています!




