第8話 聖木の館の研究。エクリプスの先。
「その反応……もしや、何かご存知なのですか?」
テオドールがもっともな疑問を口にする。
「えーっと……ご存知というか……」
セシリアはそう言いながらラディウスの方へと顔を向ける。
「まあ、色々な所で関係しているよなぁ……」
ラディウスが腕を組みながらそんな風に答えると、メルメメルアが頷く。
「たしかにそうなのです」
「皆様揃ってそう仰るとは……。――差し支えなければ、どういう事なのか詳細をお教えいただけせんでしょうか?」
そう問いかけてきたテオドールに対してラディウスたちは快諾し、エクリプスに関連する話を順を追ってしていく。
ヴィンスレイドの話や、セシリアの話はメルメメルアも知らなかった為、途中で驚いていた。
「そんな事があったですか……」
――あのヴィンスレイドが生きていたという事に驚きなのです。
……でも、そうだとすると、なおさらラディウスさんたちがどの時代から来たのかが、わからないのです……
……もしかして、過去でも未来でもない……とかです?
メルメメルアは呟きながらそんな事を考える。
ラディウスたちが平行世界から転移して来ている事をまだ知らない以上、どこから来たのかについて疑問を持つのはある意味自然ではあるが、何気に核心に近い推測へと辿り着いていた。
「……なるほど。――つまり、話を纏めると……聖木の館のエクリプス研究は、封魂術によって古の時代の災厄を乗り越え、今へと至った人々の魂が宿ったガジェット――『胚』と呼ばれるそれを人間に埋め込む事で、ガジェットを使わずに魔法を使う事が可能な人間を生み出そうとしている……という事ですね」
「そういう事になるね。そして、肉体再生魔法の暴走によって異形化した被検体を始末するのが、あのエリミネーターと呼ばれる者たち……というわけだね」
テオドールの話に頷き、そう言葉を返すセシリア。
「――色々と合点がいきますね。ですが……ひとつ疑問が残りますね」
「疑問……ですか?」
テオドールの言葉にラディウスが問いかけると、
「はい。ガジェットを使わずに魔法を使う事が可能な人間を生み出す……。ただそれだけの為だけに、これだけの大規模な事をしているという部分が、どうしても違和感を拭えないのです」
と、そんな風に言ってきた。
「それは……たしかに俺も少し感じていた所ですね。研究の規模とかリスクとかを考えると、それだけを目的としているのでは、色々と説明がつかない。だから、他になにかあっても良いのではないか、と」
「まあ、あのヴィンスレイドだけがこの研究をしていたのなら納得出来るんだけどね」
ラディウスの言葉に対し、セシリアがそう言って肩をすくめてみせる。
――そうなんだよなぁ……。セシリアの言う通り、ヴィンスレイドだけがそういう研究をしていたのなら――『ヴィンスレイド個人の目的』であると考えるのならば、そこまでおかしな目的でもないから、まだ理解する事が出来る。
だが、実際にはヴィンスレイドだけではなく、向こうの世界のビブリオ・マギアスや、こちらの世界のアルベリヒ、そして聖木の館までもが、それに関係していた。
ガジェットなしで魔法を使える人間を生み出すという『だけ』の目的で、これだけの者が研究に関わっているというのは、普通に考えたらおかしい。
なにしろ、リスクとリターンが合わなさ過ぎるし、そこまでしてガジェットなしで魔法を使えるようにする理由がわからない。
ラディウスはそこまで思案した所で、ふと気づく。
――いや、まてよ? ……俺は、ごく当たり前の可能性をひとつ忘れていないか……?
という事に。
――そう、ガジェットなしで魔法を使える人間を生み出す事で終わりなんじゃなくて、その先に何かが……真の目的が、存在しているんじゃないのか……?
なんだか、久しぶりに登場した用語がチラホラある気がします……
ま、まあそれはそれとして……第1節は次が最後の予定です。
そして、その更新ですが……明後日、日曜日を予定しています。