第2話 聖木の館への道中。追跡する3人。
「スパークソーン・改ッ!」
セシリアがそう言い放った瞬間、地面から激しく放電する荊棘が出現し、前を走る車に絡みつこうとする。
……が、車の速度の方が魔法の展開速度よりも速く、外れてしまう。
「あ、あれ?」
「自動で補正のかかる地点指定タイプ……特定の場所を起点とする魔法による攻撃は、起点確定から発動までのタイムラグの関係で、ああいった速すぎる相手に当てるのは難しい。動く先にセットするならまだいいが、車体で見えないからそれも出来ないしな」
ラディウスがそう説明すると、
「あー、なるほど……だとすると、射撃するような魔法の方が良いのかな?」
と、返してくるセシリア。
「そうだな。放射タイプや直線射撃タイプの魔法の方が当てやすい。そのタイプの魔法で、車の下部にあるASHとかいう名称のタイヤ――あの薄っすらと緑色の光を放つ黒色の車輪のようなもの――を狙うんだ」
正面に発動したスパークソーンを回避しながら、セシリアに告げるラディウス。
「ふむふむ、あれを壊して動かなくするって事だね」
「それならば、これの出番なのですっ!」
納得の言葉を口にしたセシリアに続き、ラディウスが以前手渡したクロスボウを、自らのストレージガジェットから取り出すメルメメルア。
時を遡っても自身が所持していた物はそのままなので、当然持ったままであった。
「ファイアボルト! スパークボルト! フリーズボルト! なのですっ!」
火、雷、氷のマジックボルトが立て続けに放たれ、一直線にタイヤへと吸い込まれるように飛翔。
タイヤが破壊され、制御不能になった車が大きく蛇行を繰り返した後、街道脇の木に激突して停止する。
「おー、凄い凄い! っていうか、なんか途中でボルトの軌跡が少し曲がったように見えたけど、もしかして追尾性能付き?」
「えっと……どうなのですかね?」
セシリアの問いかけに対し、メルメメルアは良く分からないといった表情でそう返しながら、ラディウスの方を見る。
「ああ。射撃時に視線で捉えていた対象が動いた場合、若干だが追尾するような術式が組み込んであるな。あまり追尾性能を高くしすぎると、今度は射出されたボルトの速度が落ちるから、そんなに優秀な追尾ではないけどな」
と、セシリアに返しつつ、激突して停止した車を追い越していくラディウス。
「あ、これってラディが作った奴なんだ」
「はいなのです。自由に解析して良いと貰ったのです」
「へぇー、ほぉー、ふーん……。なんかズルい」
メルメメルアの返事を聞いたセシリアが、ジト目でラディウスの方を見る。
「ズルいって……」
「私にも何か解析して良い物が欲しい!」
「…………。はぁ……しょうがないな。じゃあ、これでいいか?」
ラディウスはため息をつきながらストレージから銃型ガジェットを取り出すと、それをセシリアの方へと放り投げる。
「おっとと。……って、あれ? これって魔物の群れ相手にラディが使ってた奴?」
「アレの予備として作った簡易版だな。アレのような変形機構の術式は組み込まれていないシンプルな代物だが……逆を言えば、複雑過ぎて今のセシリアが解析するのにはちょーっとばかし厳しいような、そんな術式は存在していないから、学ぶには丁度いいはずだ」
セシリアの問いかけに対し、そう答えるラディウス。
「ま、術式云々の前に、とりあえず試しに使ってみるといいさ」
「うん、そうだね。って事で……メルンメロンちゃん、次は私の番ね!」
セシリアはそう言うと、車の窓から顔を出す。
そして、その横ではメルメメルアが、
「私の名前はメルメメルアなのです……。一体どういう間違え方なのです……」
と、呆れ気味に小さく呟くのだった。
射撃も魔法というのが、この世界(両方)の特徴ですね。
一応、普通の弓矢とかもあるにはあるのですが、魔法に比べるとどうしても威力が低い為、あまり使われません。
特に『こちら側の世界』は、文明&技術レベルが高い(鉄道網が発達していたり、車があったりするくらいの)ため、物理の射撃武器との威力差が『あちら側』よりも、更についていたりしますし。
さて……そんな所で、また次回!
次の更新は、明後日……火曜日の予定です!




