第8話 第2の渡り手。剣とドールと娘の話。
「とはいえ……まずは座ってくれないだろうか」
ディーゲルがそんな風に言って、ソファーに座るように促す。
ラディウスとセシリアがそれに従う形でソファーに腰を下ろした所で、
「しかし……許可した人間以外は絶対に通さぬあのドールガジェットが、私が呼んだラディウス殿以外を通すとは……」
と、そんな風に言うディーゲル。
「あ、それでしたら簡単な話です。私の持つ剣――剣型のガジェットが、古の王族の物だったらしく、王族扱いされまして……」
セシリアが聖女モードの口調で、やや苦笑気味にそう言いながら神剣をテーブルの上に置くと、ラディウスが引き継ぐようにして続きの説明をする。
「あのドールガジェットに与えられた『権限』だと、『王族』を止める事が出来ないんだそうです」
「なるほど……そうであったか。たしかにかつての王族には、そのような『特権』が与えられていた時代があったな……。もっとも、それを悪用する愚かな王子が現れたがゆえに、200年という短い年月で廃止となったがな」
ディーゲルがため息交じりに言葉を紡ぎ、呆れた物だと言わんばかりの表情をする。
「つまり、あのドールガジェットは、その200年の間に作られた?」
「そういう事になるが……実の所、私はアレの作り手に関しては良く知らないのだ。なにせ、遺跡――古代の研究所跡で見つけた物だからな。……まあ、珍妙なスキャニング魔法を仕込んでいたりするあたり、作り手は少し……いや、かなりの変人であったようだが……」
ラディウスの問いかけにそう答えるディーゲル。
「あ、そういえばその魔法、私もされた」
「貴方もアレの被害にあったですか……」
素の口調になったセシリアの発言に、メルメメルアが同情気味に言葉を返す。
「それはすまぬ。――あの珍妙なスキャニング魔法に関しては、私も把握していなかったものでな……。後ほどドールガジェットの術式を解析して、解除しておこうと思う」
セシリアに対し、ディーゲルが頭を下げてそんな風に言う。
「あ、いえ、把握していなかったものは仕方がないと思います。それより、話の腰を折る形になって申し訳ありません。――本題に戻るとしましょうか」
セシリアが再び聖女モードになり、そうディーゲルに告げる。
「うむ……。――実は貴殿らに頼みたい事があって呼んだのだ」
「頼みたい事……ですか?」
ディーゲルの発言に、ラディウスが腕を組みながら問う。
「メルメメルア殿から、貴殿らはアルベリヒの罠に嵌められかけた所を、かろうじて離脱し、あの男が何をしようとしているのかを追っている所だと聞いた」
――あ、メルはそういう風にディーゲルへ説明したのか。
まあでも、時を遡ってきたとか言うよりも、そう言っておく方が妥当か。
ラディウスはアルベリヒの言葉を聞きながらそんな風に考える。
「――私もアルベリヒの罠に嵌められたひとりだ。娘を……ある意味、人質に取られた状態で、アルベリヒにとって都合の悪い者を、ドールガジェットや人形を使って始末するよう、命じられている……」
「ああ、やはりそうでしたか」
ラディウスはディーゲルの告白に、得心のいった顔でそう返し、思考を巡らす。
――だが、そうだとすると……あの時、あの場にディーゲルの娘がいた事と、あの死んでいたと思った状態からの唐突な動きがよくわからないな……
メルと同じ……いや、それよりも強力なマインドコントロールでもされていたのだろうか?
でも、マインドコントロールだけではあんな動きが出来るはずは……
他に考えられるのは、あの魔軍の中心にいた仮面の術士が使っていた操魔の魔法のような、相手の意思すらも操るタイプの魔法だが……そう簡単に人を操れるものではない。
もし、そんな魔法を有しているのだとしたら、奴――アルベリヒは非常に危険な相手だな……
もうあと2~3話で第3章も終わりです。
という所で、次回の更新ですが……明後日、月曜日の予定です!




