第7話 第2の渡り手。館の中へ。
「あ、本当だ。一瞬前までの満腹感がなくなったよ!」
レスティア村からディーゲルの館の前へと飛んだ直後、そんな事を言うセシリア。
ラディウスはそれに対して無言で肩をすくめてみせながら、ディーゲルの館の方へと視線を向ける。
――さて、あちら側へ戻る前にセシリアが全裸……げふん、こ、混乱したり、落ち着かせたり、説明したりと、色々あってそれなりの時間が経過していたはずだが……メルの方はどうなったのだろうか……?
と、そんな事をラディウスが思っていると、
『冒険者らでぃうす殿、ますたーヨリ、貴殿トノ会談要望ヲ受信』
『本会談ニツイテ、貴殿ハ、承諾カ辞退カヲ選択可能デス』
なんて声が聞こえてきた。
無論、それはドールガジェットの声だ。
――どうやらディーゲルが俺と話をしたいという事らしい。
いや……どちらかというと、メルが俺を呼んだ感じか?
なにか進展があったと考えて良さそうだな。
ラディウスはそこまで考えた所で、
「承諾だ。――セシリアも一緒で構わないか?」
そうドールガジェットに言いながら、セシリアの方を見る。
『承諾、許可。ますたーニ、ソノ旨ヲ返信』
『我々ニ、王族ヲ阻止スル権限ナシ。ドウゾ、ゴ自由ニ』
「どうやら、好きにしていいらしい」
「王族って止められないんだね……。それで良かったのかな? 1万3000年前は」
「さあなぁ……。1万3000年前のルールだの法だのは、さすがにわからん」
ラディウスはセシリアにそう答えると、ドールガジェットの方を見て、
「それで、入っても構わないのか? ……ああ、スキャンニングするのか?」
という問いの言葉を続けた。
『貴殿ハ、ますたーノげすとデス』
『すきゃんにんぐハ、不要』
「あ、なんかズルい」
ドールガジェットの言葉に不満げに言うセシリア。
「ズルいと言われてもなぁ……。まあいい、そういうわけだから行くぞ」
ラディウスはセシリアにそう言葉を返すと、ドールガジェットがふたりを誘導するかのように、屋敷の中へと歩き始める。
それに従う形で、ふたりもまた屋敷の中へと歩を進めるのだった。
◆
ドールガジェットに案内されて応接間に入ると、ディーゲルとメルメメルアが、ガラス製と思しき透明なテーブルを挟むようにして備え付けられているソファーに、それぞれ座っている姿が見えた。
「あ、ラディウスさ……って、あの、そちらの女性の方はどちら様なのです?」
向かって右側のソファーに座っていたメルメメルアが、立ち上がりながら当然の疑問を投げかける。
「ああ……。こいつはどういうわけか俺と同じように『飛んで』来てしまった、俺の古馴染みのセシリアだ。何故ここに『飛んで』来たのかは俺にも分からん」
「セシリア・レティア・クローヴィアスだよ。向こうでは、諜報員と聖女をやっていたんだ」
ラディウスの説明に続き、そんな自己紹介をするセシリア。
向こうって言い回しに若干引っかかりを覚えたメルメメルアだったが、それよりも経歴の方が気になった。
「諜報員で聖女……。随分と異色な経歴なのです……」
というメルメメルアの呟くような言葉に、ラディウスはたしかにそこだけ聞くと異色だな……と思いつつ、
「まあ、そんなわけだから情報収集や近接戦闘では役立つはずだ」
そう話を纏めると、続けて問いの言葉を投げかける。
「……それで、俺をここに呼んだのはどういう理由だ?」
それに対し、メルメメルアが答えるよりも先に、向かって左側のソファーに座っていたディーゲルが立ち上がりながら口を開く。
「――それについては私の方から話すとしよう」
と。
少しばかり気になる所があったので修正していたら、更新が遅くなってしまいました……




