第6話 第2の渡り手。障壁展開。
ラディウスに操作するよう呼びかけられた若い男性が、
「あ、はい! わかりました!」
と、若干緊張の混じった声を返しつつ、ガジェットを操作し始める。
大型とはいえガジェットである事に変わりはないため、操作自体はさほど難しいものではなかったりする。
そのため、村の若い男性でも動作させたり停止させたりが容易である。
程なくしてガジェットが駆動し、組み込まれている障壁展開魔法が発動。
村全体が、魔法障壁――薄い紫色の膜によって包まれる。
「ほう、これはまた凄いですな……」
「はい、これほどの魔法は初めてみました……」
マクベインとレスターが、感嘆の声を上げる。
「で、この膜が見えたまま……というのは、さすがにどうかと思うから……」
ラディウスはそう言うと、再び上にいる村人に向かって次の操作に移るよう伝える。
と、その直後、村全体を覆っていた薄い紫色の膜が消滅する。
「あれ? 障壁が消えた?」
急に障壁が消えて驚いたのか、素の口調が出るセシリア。
「いや、障壁自体は存在しているぞ。ただ不可視になっただけだ」
「へぇ……凄……いですね」
ラディウスの説明を聞いたセシリアが、言葉を返す途中で自身の口調に気づき、急に聖女のそれに戻す。
だが、すぐに素の口調に戻り、小声でラディウスに問いかけた。
「……ところで、ラディ。あっちの世界はどうするの?」
「そうだな……あっちは正直、何が起きるか分からないし、ガジェットの魔力を先に回復させてから行くつもりだ」
ラディウスが小声でセシリアにそう返事をすると、
「ん、了解。それじゃそれまでに私の方も準備しておくね」
と、小声で更に言ってくるセシリア。
――セシリアが向こうに行ける様になった事で、不足していた近接戦闘や諜報といった面が、補われたと言っていいだろう。
まあ……正直言うと、セシリアは若干ポンコツな面があるのだが……それでも、今までとは違う事が出来るようになった、というのは大きい。
ラディウスはそんな事を思案しつつ、魔物――魔軍対策の最後の確認作業に入るのだった。
◆
「本当は、もっと豪勢にしたかったのですが、魔物の後片付けやら復興作業やらで時間が取れず……申し訳ありません」
夕食時になり、村の中心にある広場へとやってきたラディウスに、レスターが申し訳なさそうに言う。
「あ、いえ、これでも十分すぎるのでお気になさらず」
そう言いながら周囲を見回すラディウス。
いつの間にか、広場はまるで祭りの会場の如くなっており、あちこちに簡易的な屋台が設置され、そこに料理が並べられていた。いわゆるビュッフェスタイルという奴である。
それは、レスターが言った通り、多くの村人が後片付けやら復興作業やらに追われた事もあり、手の空いた者たちで全員分の料理を作る形になった結果だった。
――本当に十分すぎる。っていうか、よくまあこれだけ作ったものだ……
ラディウスが心の中で感嘆していると、
「うわっ、なんか凄い事になってる!」
という驚きの声と共に、セシリアが姿を見せる。
「凄いのだわ! 祭りの日並なのだわ!」
「たしかに凄いわね。……うーん、よく考えたらこういう形式もありよね」
それぞれ異なる感想を口にするクレリテとルーナ。
ルーナの方はどちらかというと、ビュッフェスタイルの概念そのものに対する感想で、今度、こんな感じのを小規模にして酒場でもやってみよう、なんて事を考えていたりする。
ある意味、その辺りは宿酒場の娘らしいとも言えなくもない。
「……魔力は十分に回復しているんだが、飯を食う前と後、どっちがいい? ちなみに向こうでは、空腹感も満腹感も引き継がれない」
ラディウスはセシリアに歩み寄り、そんな事を問いかける。
「無論、後で!」
即答するセシリア。
ラディウスはそれに対し、「ま、そう言うだろうとは思っていたけどな」と、肩をすくめて言う。
――もっとも、俺もこれを目の前にしながら、先に向こう側へ行こうだなんて思わないけどな。
そう心の中で付け加えながら。
というわけで……次の話から、しばらくあちら側の話になります。
3章ラストまでと、4章の序盤はあちら側になると思います。
さて、その次の話ですが、明後日木曜日の更新を予定しています!