第5話 第2の渡り手。村の魔法障壁。
「わわっ。いつの間にか立派な櫓が組み上がってるし!」
魔物の残党狩りから戻ってきたセシリアが、村の中心に作られた櫓を見て、そんな驚きの声を上げた。
「お、帰ってきたか。魔物の残党の方はどうだ?」
「とりあえず、マリス・ディテクターの感知範囲にいたのは全て狩り尽くしたから、もう大丈夫だと思うよ。あ、そうそう感知って言えば……さっきルーナに会ってね、もうすぐ作った感知魔法のガジェットは全て設置し終わるってさ」
「さすがはルーナ。作るのも設置するのも早いな」
「まあ、ルーナの腕がラディの次に高いのは否定しようがないからねぇ。……ちょっとだけ悔しいけど」
「セシリアの腕も、最初に比べたらかなり上がっているから心配するな」
ラディウスはそう言いながら、セシリアの頭を撫でた。
「わひゃ!?」
そして、すぐにセシリアの素っ頓狂な叫びでハッとなって頭から手を離す。
――いかん、子供の頃の癖が出た!
今までこんな事なかったんだが……。な、なんでだ……?
ラディウスは自身の唐突な行動に疑問を抱くが、それよりも先に言うべき事を思い出し、
「っと、すまん! なんか急に昔の事を思い出して、うっかり撫でてしまった……」
と、そんな風に謝る。
しかしそれに対して、
「た、たしかにそんな事あったね。あ、む、昔と一緒で、撫でられるのは別に嫌じゃないというか……むしろ嬉し――」
なんて事を言って返すセシリア。
だが、そこまで言った所でセシリアは恥ずかしくなり、
「じゃ、じゃなくて! えっと……そ、それで? こ、この櫓は何のための物なの? 見張り用?」
と赤面しつつも、それを隠すように勢いよく、疑問の言葉をラディウスに投げかけた。
「あ、ああ、え、えっと、これがさっき話した魔法障壁を展開するガジェットだ、うん。これで村全体を覆う事が出来る」
頭の中であれこれと考えていたラディウスは、少ししどろもどろになったものの、なんとかそう説明しながら心を落ち着かせる。
「ええっ!? こんなに大きいのっ!?」
「だから、大掛かりな物になると言っただろ?」
「いや、うん、たしかに聞いたけど……ここまで大きいとは思わなかったよ」
色々と落ち着いたセシリアはそう言いながら櫓を見上げ、それから感嘆の言葉を紡いだ。
「よくまあ、この短時間で組み上げたね……」
「聖騎士の皆と、手が空いていると言ってやってきた村の人たちが、張り切ってくれたお陰だな」
そうラディウスが口にした所で、
「魔物を退ける魔法とあっては、協力しないわけにはいきませんからね」
という声と共に、ガッシリとした体格の壮年の男性が姿を見せる。
「……?」
ラディウスの方を見て、視線で「誰?」と問いかけるセシリア。
その仕草でセシリアの言わんとしている事を理解したのか、ラディウスが答えるよりも先に、
「おっと名乗りがまだでございましたね、失礼いたしました。――私はこの村の村長をしておりますレスターという者です。聖女セシリア殿の事は、クレリテ殿から何度か聞いた事がございます」
と、そう告げる壮年の男性――村長のレスター。
「クレリテ? ……もしかしてこの村は、クレリテの巡回の範囲なのでしょうか?」
一瞬にして聖女な口調になったセシリアが、レスターへと問いかける。
「はい。この村には古い水車小屋を改築しただけの簡易的な教会しかない事もあって、神父様などは常駐しておられませんので……」
「なるほど……そうだったのですね。クレリテが、この辺りの地形に詳しい理由が良く分かりました」
レスターの説明に対し、納得顔でそう言葉を返すセシリア。
「その通りなのだわ。だから、最初に話を聞いた時は驚いたのだわ。……でも、ラディが救援に行くと言ったから慌てる事はなかったのだわ。むしろ落ち着いて行動出来たのだわ」
「はい、私も同じでございます。ラディウス殿であれば、なんとかしてしまうであろう……と、そのように思いましたので」
クレリテとマクベインがラディウスたちの方へと歩み寄りながら、それぞれそんな事を口にした。
「それで……このガジェットは、まだ完成していないのだわ?」
「いや、ちょうど最終チェックが終わって、これから起動させてみようとしていた所だ」
クレリテの問いかけに対してラディウスはそう答えると、顔を上に向け、櫓――櫓型の大型ガジェットの上にいる村人に向かって、
「準備オッケーです! 先程説明したとおりに操作してください!」
と、声を大にして呼びかけるのだった――
ラディウスとセシリアの『昔』については、機会があれば、いずれどこかで語りたい所ですね。
という所で次回の更新ですが……明後日、火曜日の予定です!




