第3話 第2の渡り手。あちら側への戻り方。
ラディウスが思案を巡らせていると、
「――ところで……私たちの世界に戻るにはどうすればいいの? ラディが普通に今まで行き来していたなら戻り方あるって事だよね?」
と、セシリアがもっともな疑問を口にする。
「おっと、そういえばその説明をしていなかったっけな。なに、特に難しい方法じゃないから心配する必要はないぞ。単にあちら側――正確には、こちらに転移してくる直前に居た場所の光景を思い浮かべればいいだけだ」
「え? それだけ?」
ラディウスが告げてきた戻り方があまりにも簡単すぎた為、逆に驚くセシリア。
「そうだ、それだけだ。ま、試してみるといい。……ああそうそう、こちら側とあちら側では、時間の流れが連動していない。つまり、向こうに戻ったらこっちに来る直前から1秒たりとも時間は経過していない状態だ」
「あ、そうなんだ。じゃあ、変な事を口走らないようにしないと。……この行き来って、誰にも言わない方がいいよね? 今までラディは黙っていたわけだし」
セシリアはそう言って自身の口元に指を当てた。
それに対し、ラディウスは髪を掻きながら答える。
「あー、いや、それは単純に俺しか行き来が出来なかったし、誰かに話した所でどうにもなるもんでもなかったから言わなかったってだけの話でな。別に黙っている必要はないぞ」
「え、そうなの? んー、でもたしかに別の世界と行き来出来るだなんて事、みんなに話したとしても、あんまり意味はないよね……他のみんなからしたら、どこにも行っていない様にしか見えないわけだし」
「それはまあ……そうだな」
「じゃあ、私とラディの間の秘密って事でこのまま黙っておこう! その方が色々と都合がいいし!」
「……都合?」
「あ、いや、なんでもない! そ、それより早速試してみるね!」
――都合がいい……。どういう事かよくわからんが……まあセシリアだし、悪い事に利用するわけではないだろうから、別に深く追求しなくてもいいか。
それに……どうやら自動的に俺も一緒に移動するみたいだしな。
ラディウスがそんな風に思った次の瞬間、ふたりの視界が暗転し、一瞬にしてセシリアが懐中時計型のガジェットに触れた直後に戻ってくる。
「わっ、ホントに一瞬で戻ってきた!」
――変な事を口走らないように……と、自分で言っておきながら、もう口走ってるし……
と、心の中でセシリアに対してため息をつくラディウス。
そんなセシリアに向かって、クレリテとルーナが、当然のように疑問の声を投げかける。
「戻ってきた? セシリアは一体何を言っているのかしら? どこにも行っていないじゃない」
「あー、もしかして……今さっき触れていた懐中時計のような物が特殊な代物で、精神だけどっかに行ってきた……とかなのだわ? 昔読んだおとぎ話に、そんな感じの展開の物があったのだわ」
――そんなおとぎ話あるのか……
クレリテの言葉にラディウスはそんな風に思う。
対して直接問われたセシリアの方はというと……
――あわわっ! つ、つい口にしちゃったよ……っ!
せ、折角、ラディとふたりになれる機会が出来たのに、危ない危ない。
こ、こんなんだから、諜報員としては半人前だとか言われるんだよ……私。はぁ……
などという事を考え、自分の言動と感情に対して心の中でため息を漏らす。
そして、とりあえず誤魔化すべく曖昧に返事をした。
「――あ、え、えっと……。う、うん、まあそんな感じ」
「それは気になるのだわ! 一体どこへ飛んでいって何があったのだわ?」
「え、えーっと……神剣が13000年前の『王の剣』だったっていう情報を得てきた感じかな」
食いついてくるクレリテに、セシリアはそんな言葉を返す。
それを見ながらラディウスは、そこだけ伝えるのか? と、そんな風に思ったが、敢えて何も言わない事にするのだった――
言っても言わなくても、向こう側にはメルメメルアがいるので「ふたりきり」になる事はないという……w
さて、そんな所で次回の更新ですが、明後日金曜日の予定です!
※誤字を修正しました。
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