第17話 魔軍事変。謎から謎へ。
「英雄殿――ラディウス殿やルーナ殿は、先程の……禍々しい化け物のような存在が、何であったのか予想がついたりはするかね?」
魔物を操るガジェットの可能性を推測したラディウスや、そのラディウスに近い技術や知識を持つルーナならあるいは……と思い、ラディウスたちの方へと歩み寄りながら、そんな問いの言葉を投げかけるアルディアス。
「いえ……。正直、あれがなんであるのかは、推測も現時点では難しいですね。……まず、術式を覗いてみたのですが、解析不能でしたし……」
「ラディの言うとおりとい言いますか……私も反射的にあの術式を覗こうとしたのですが、あっという間に消えてしまった上に、一瞬だけ見えた術式も、まるで既に術式自体が崩壊しているかのような……そんな意味不明な代物でした……」
ラディウスとルーナがそんな風に答える。
「……ふむ。崩壊した術式の如き解析不可能な代物……か。それはつまり……未知の術式――」
と、そこまで言った所で、アルディアスは一度黒ずんだ地面を一瞥し、「いや、そうではないな」と呟いて、頭を振った。
「――ふたりの知識をもってしても解析出来ないような、意味不明な式であるという事は、必然的にこれまでに発見されている魔法の式――魔法形態とは根本からして違う代物である……という事であろうか?」
そう言い直すようにして、ラディウスとルーナに問いかけるアルディアス。
「……そうですね。未知の魔法形態に属する魔法である可能性は高いと思います」
アルディアスの問い対し、そう答えるラディウス。
そして、その言葉に同意するように首を縦に振るルーナ。
「まあ、魔物を使役するとかいう時点で、既に未知だからねぇ……」
と、ラディウスの横に立つセシリアが言う。
「ふむ、たしかにその通りであるな。未知の魔法を使う者……か。案外、別の大陸などからやってきた者……という可能性もありえるのやもしれぬな」
「そういえば、別の大陸には異なった技術形態のガジェットや魔法があるという話を、以前聞いた事があるのだわ」
アルディアスの言葉に、何かを思い出しながら言うクレリテ。
――まあ……彼の古代文明の末期頃は『災厄』を乗り越える為に、幾つもの研究機関が『魔法』に関して、異なるアプローチからの研究を行っていた事は、妖姫やメルとの話で分かっているからな。
この大陸と別の大陸とで、根幹からして異なるような、そんな形態……形式の魔法が生み出されていても、別におかしな事ではないか。
ラディウスがそんな事を思案していると、セシリアが、
「……あれ? あそこで今何かキラッと光ったような……」
なんて事を言いながら、大量の血によって黒ずんだ地面の方へと歩み寄る。
「ん?」
セシリアの視線の先にラディウスも視線を向けてみる。
すると、半ば地面に埋もれかけているものの、キラッと光る何かがあるのが見えた。
それを拾い上げるセシリア。
「……懐中時計?」
その呟くような声に、まさかと思い、ラディウスは慌ててセシリアへと駆け寄る。
するとセシリアの手の中にあったそれは、ヴィンスレイドの屋敷でラディウスが手にした物と全く同じ代物だった。
――どうしてこいつが、こんな所に?
ラディウスがそんな疑問を抱いた瞬間、カチッという音が耳に響く。
直後、セシリアの耳にもカチッという音が響き、手にした懐中時計が消え去った。
そして、ふたりの視界が唐突に暗転。
ラディウスにとっては幾度も経験したその感覚と共に、すぐに目の前の景色が変わる。
ふたりの目に飛び込んできたのは、夜の帳に包まれた大きな館――そう……それは向こう側の世界。ディーゲルの館であった……
という所で、魔軍事変の節は終了です!
……そして、遂に平行世界間を移動出来る人間が2人に増えました。
さて、次回は節が変わります。……章は変わりそうで変わりません。
『セシリアたちの世界』側は、魔軍事変の節で3章は終わりですが、『メルメメルアたちの世界』側は、メルメメルアが館に入った所で止まっているので、3章はまだ続きます。
とまあそんなこんなで次回の更新ですが……明後日、土曜日の予定です!




