第15話 魔軍事変。仮面の術士。
「うぐぐぐぐ……。とんだ醜態を晒したのだわ……。――ぶっとばしてやるのだわぁっ! ライトニング……ブレードォォッ! なのだわぁぁぁっ!」
復活したクレリテがそんな叫び声を上げると、手に持った伸縮する剣に紫色の雷光――紫電が纏わり付く。
そして、それを先ほどラディウスが倒したロックシーカーに代わるようにして、クレリテたちの方へと近づいてくるロックシーカーに目掛けて十字に振るう。
一瞬にして、ロックシーカーが十文字に引き裂かれ沈黙。
そこへクレリテを脅威と判断したのか、ロックシーカーの群れが殺到する。
「ガンガン来るがいいのだわぁぁぁっ! 全部ぶちのめしてやるのだわぁぁぁっ!」
なんて事を叫びながら、剣をガムシャラに振るい始めるクレリテ。
まさに、雷の竜巻といった状態になったその剣により、瞬く間にロックシーカーの群れが文字通りタダの岩塊へと変わっていく。
「暴れすぎ……。はぁ、やれやれだよ……」
なんて事を言いつつ、素早く這い寄ってきたニードルリザード2体を、視線も合わせずに凍結魔法で凍てつかせるセシリア。
「あっちはクレリテに任せておいていいわね……。それより、そろそろ目的の地点のはずだけど、どこにも怪しい人物なんていないわね……」
「たしかにそ――っと、いや、いた! あそこだ!」
ルーナの言葉に頷きながら周囲を見回した所で、灰色のフード付きローブに身を包み、左半分が白、右半分が黒という不気味な仮面をつけた人物の姿を、その目で捉えたラディウス。
ラディウスたちに捕捉された事に気づいた仮面の術士は、即座に魔物たちを自身とラディウスとの間へと集め始める。
「逃げる気かしらね?」
「かもしれんな。まあ……押し通るまでだが」
ルーナの問いかけにそう答え、ラディウスは銃型ガジェットを構え、魔法弾を連射。
その横でルーナもまた、クロスボウ型ガジェットを構えて、マジックボルトを連射する。
前に立ち塞がった魔物たちが、ふたりのガトリングめいた射撃によって、次々に倒れていく。
「こっちもやるのだわ!」
いつの間にかロックシーカーを一掃し終えていたクレリテが、ラディウスたちの方へと駆け寄りつつそう言い放ち、上空から接近してくる魔物を、剣で叩き落とし始める。
「――サーペンタインフロスト・改!」
「――ルミナスレイン!」
マクベインとセシリアも、クレリテに続く形で、魔法を使って魔物たちを片っ端から討ち滅ぼす。
しかし、それでもなお魔物は行く手を遮り、なかなか近づけない。
「思ったよりも守りが厚い……っ」
「魔物が、まるで私たちに倒されに来るかのように、うようよと集まってくるのだわっ」
セシリアとクレリテがそんな風に言う。
――操魔……か。さすがに、時を遡る前も厄介な代物だっただけはある……
このままでも押し切る事は出来るが……時間がかかると逃げられかねないな……
ふたりの声を聞きながらラディウスは、心の中で忌々しげに呟く。
と、その直後、唐突に魔物の群れが爆ぜた。
「!?」
「――英雄殿! 援軍です! 枢機卿猊下が……猊下の部隊が来られました!」
後方からラディウスたちに随伴していた聖騎士が、拡声魔法でそう伝えてくる。
「なんとも、良い所にこられましたな」
そんなマクベインの言葉にラディウスは、まったくだと思いつつ同意した。
攻撃魔法の数、そして聖騎士の数が増えた事で、ラディウスたちの行く手を遮るようにワラワラと集まってきていた魔物どもが、辿り着くよりも前に討ち取られ始めるようになった。
それによって、ラディウスたちの行く手を塞いでいた魔物は、みるみる内にその数を減らしていく。
そして、ついに仮面の術士との間に直線が開いた。
「今だっ!」
ラディウスは声を大にして、短くそう言い放つと、一直線に仮面の術士へと駆ける。
「英雄殿たちの道を切り拓くのだ! 総員、英雄殿たちに近づく魔物を止めよ!」
後方から聞こえたアルディアスのその声と共に、聖騎士たちも突き進む。
ラディウスたちを中心に、左右と後方を聖騎士が囲む形となり、近づく魔物たちを迎撃していく。
迎撃に回った聖騎士たちはその場に留まる形となり、少しずつラディウスたちの周囲の聖騎士の数が減っていく。
そうして、全ての聖騎士がラディウスたちの周囲からいなくなった所で、一行はどうにか仮面の術士へと辿り着いた。
「神剣の聖女セシリアの名において、汝を捕縛させていただきます! ――アストラルアンカーッ!」
セシリアが芝居がかった口調で告げ、アストラルアンカーの鎖で仮面の術士を拘束する。
不思議な事に仮面の術士は、まったく抵抗をしなかった。
――なんだ……? 随分とあっさりと拘束されたな。
というか、こちらが近づく前に逃げ出すと思っていたが……何故この場で待ち構えていたんだ……?
いや、そもそも逃げる気がない……?
ラディウスが仮面の術士の行動に妙な違和感を抱いた直後――
「聖女……そして枢機卿……。神剣教会とは、かくも厄介な存在であったか……。これは、脅威の認識を改めねばなるまい……」
仮面の術士が、拘束されているにも関わらず、驚いた様子も焦った様子も感じられない淡々とした口調と、男とも女とも分からぬ奇妙な声色で、そんな言葉を返してきたのだった。
当初の想定よりも長くなってしまっている『魔軍事変』の節ですが、あと2~3話です。
……こ、今度は想定外に長くなる事はないと思います!
そんなわけで次回の更新ですが……明後日、火曜日の予定です!




