第13話 魔軍事変。巻き起こすは魔法の嵐。
「それを使ってください」
「これは……新品のようだが……? 良いのかね?」
ラディウスからガジェットを受け取ったアルディアスが、手元――ガジェットへと視線を落としながら問う。
「はい。それは予備で作ったものなので」
と、アルディアスに答えるラディウス。
「予備なんて作ってたんだね」
「ああ、魔力切れになったら困るしな。まあ、幸いな事に俺たち全員の手持ちのガジェットは、ソルムの薬液で魔力を回復してあるから、今の所必要ないけど」
セシリアの問いかけにそんな風に答え、心の中でソルムの薬液をくれたオードに感謝するラディウス。
――でも、もしソルムの薬液がなかったら、ラディの作った予備だけじゃ結構厳しい事になっていたわね……
まあ、ラディの事だからそれも想定して用意しておいたんだとは思うけど。
ルーナはラディウスたちのやり取りを見ながらそんな事を思う。
無論、実際には想定していなかったのだが。
「かたじけない。それと……フィルディオには西――左翼を任せたい」
「はっ! 委細承知いたしました! 左翼はお任せください!」
フィルディオはアルディアスに敬礼し、そう言い終えると、即座に移動を開始する。
「――さて、それじゃあ俺たちも定位置へと移動するとしよう」
ラディウスの言葉に皆が頷き、フィルディオに続く形で、速やかに移動を開始するのだった――
◆
「――魔物どもが何やら動きだしてきたな」
ラディウスが魔物たちの動きを観察しながら、皆に告げる。
「だね。さすがにこちらの動きに気づいたんだと思うよ。広がっていた魔物たちが私たちの正面辺りに固まり始めてきているし」
「集まってくれた方が、魔法で纏めて吹き飛ばしやすくなるが……」
セシリアの発言にラディウスはそう返しながら、マリス・ディテクターを使い、その反応がない場所――すなわち、操っている人物のいるであろう地点を見極める。
「……若干後退したか? あまり下がられると面倒だ。速めに動きたい所だな」
ラディウスがそんな風に呟くように言った直後、マリス・ディテクターの反応がない場所から離れた地点に、青い爆炎が巻き起こった。
その青い爆炎に飲み込まれた魔物どもが、瞬く間に灰と化し、そして雨で流されていく。
「青い爆炎――アジュール・デトネーションね」
ルーナが爆炎の方を見ながらそんな風に言う。
「赤い炎よりも熱い……んだっけ?」
「まあそんな感じだな。……まれに氷属性の炎とかいう良く分からん代物の場合もあるが、少なくともあれは違う」
ラディウスはセシリアの問いにそう返すと、
「――黒紋」
と、短縮ワードのみを発して魔法を発動。空中に特大の魔法陣が生み出される。
「さて、一気に突っ込むぞ! ルイナスグルームッ!」
その言葉と共に、漆黒の極太ビームが魔法陣から発射され、直線上にいた魔物が一気に薙ぎ払われ、まるで魔物の群れが左右に分割されたかのようになった。
セシリアはその光景を眺めながら、「うわぁ、凄い威力だね……」などという感想を口にした後、続けて、
「虚空より暗雲割きて降り注ぎしは、金色なる千の月輪! ――クリーヴィング・クラウズ!」
と言い放ち、自らも魔法を発動。
魔物が密集している地点に、上空から文字通り暗雲――雨雲を割くようにして、金色に輝く無数の円月輪が回転しながら降り注ぎ、魔物を引き裂く。
「滅びを齎せし冥き陰、咆哮となりて我が道を拓かん――クワイタス・ディフュージョンッ!」
「地より天穿つ昏く重い灰の荊棘、今こそ咲き爆ぜよ――ソーンアップヒーバルッ!」
「煌めける光輝なる魔弾、集い集いて万華の暴虐となれ――レイディアントサルヴォッ!」
地面を這い広がる無数の赤黒い衝撃波、地面を隆起させながら飛び出す幾つもの巨大な鈍色の荊棘、シューティングゲームの弾幕を思わせる無数の赤と青の光弾。
ルーナ、クレリテ、マクベインと続けて放ったそれらの魔法が更に魔物の群れを消し飛ばしていく。
それは、遠くから見た者にとっては、まるで極彩色の嵐が巻き起こっているかの如き光景であったであろう。
5人が立て続けに放った圧倒的なまでの暴威――高威力かつ広範囲の魔法によって、魔物の陣容に大きな穴が出来た。
「今だ! 突っ込むぞ!」
ラディウスの掛け声と共に、その場にいた全員が鬨の声を上げて走り出した――
今回は、なんともアレな呪文(正確には魔法の起動ワードですが)と、
なんともアレな魔法の名前が多数出てくる回でした(何)
一応、魔法の名前を日本語にすると……
アジュール・デトネーション:淡碧の爆轟
ルイナスグルーム:破滅を齎す闇
クリーヴィング・クラウズ:雲の引き裂き
クワイタス・ディフュージョン:死滅の拡散
ソーンアップヒーバル:荊棘の隆起
レイディアントサルヴォ:輝きの一斉掃射
とまあ、こんな感じでしょうか。
といった所で、また次回!
更新は、明後日の金曜日を予定しています!




