第11話 魔軍事変。魔物の群れに潜むモノ。
「今の所、村の外に集っている魔物の群れに動きは見られませんでした。レクトゥーレの丘周辺に留まったままです」
教会内に臨時に設けられた作戦会議スペースで、偵察から戻ってきた聖騎士がそう告げてくる。
「村内の魔物を一掃した事で、警戒している……いや、攻めあぐねている、のか?」
腕を組んで考え込むラディウス。
「魔物にそんな知性があるのだわ?」
「上位の霊体、亜精霊、ドラゴンといった存在であるならば、言語を介するし、知性もかなりのものだぞ」
疑問を口にしたクレリテに対し、ラディウスはそんな風に説明する。
「それはつまり……今起きている大規模な襲撃は、魔物の集団の中にそういった存在が潜んでいて、そいつが指揮官のような役割を担っている、という事……なのかしら?」
ルーナがこめかみを軽く揉みながら、問いの言葉を発する。
「もしくは、魔物を使役している者がいるか……だな」
「魔物を使役……? そのような事が可能なのですか?」
ラディウスの返答に、聖騎士のひとりから、もっともな疑問の声が上がる。
「……さすがに実物を見た事はないんですが……世の中には、そういう性能を有する特殊なガジェットが存在するんですよ。まあ……非常に複雑怪奇な術式なので、その術式以外をガジェットに組み込む事が出来ないという欠点がありますけど」
と、時を遡る前の知識と経験をもとに、そう説明するラディウス。
なお、『実物を見た事はない』というのは嘘である。
どこで見たのかと問われた場合、それを説明するのがとても厄介なので、そういう事にしたのだ。
「あの魔物の群れが、そのガジェットによって率いられていたとしたら……実に厄介な話になりますな……」
「うむ……。誰が何の目的でそのような事をしているのかを突き止めないと、また今回のような事が起きかねん」
フィルディオとアルディアスがそんな事を言った所で、
「その辺は、外の魔物を掃討してみればわかる、というものです」
と、そう告げるラディウス。
「……どの道、外の魔物は掃討する必要がございますからね。民を連れて逃げる方が、危険でございますし」
マクベインがそんな風に言うと、
「それはまあ……その通りではあるが、あのような開けた場所に居られては、手の出しようがない。こちらから打って出たりしようものなら、あっという間に囲まれて一巻の終わりだ」
と言って、悩むアルディアス。
「そこに関しては特に問題はないのだわ。むしろ開けているからこそ、周囲を気にせずに最大火力の広域攻撃魔法をぶっ放せるのだわ」
そんな言葉を紡いだクレリテに対し、セシリアは頷くと、相変わらずの聖女モードで同意の言葉を発する。
「はい、私もそのように思います」
「広域攻撃魔法というのは……先程見た『柱』や『鳥の群れ』みたいなものですか?」
挙手をし、そう質問してくる聖騎士。
「違うのだわ。あれよりも強力な奴なのだわ。村の中で使おうものなら、確実に家屋をまとめて吹き飛ばしてしまうから使えなかっただけなのだわ」
と、クレリテ。
そして、その返答に続く形で、ルーナが補足する。
「はい。平原、および丘であればその心配もありませんので、存分に放つ事が出来ます」
「そ、それはまたなんというか……実に頼もしいですね……」
質問をした聖騎士が、少し引き気味にそんな事を言いつつ納得する。
「ふむ……。そのような魔法があるのであれば、たしかに開戦時に優位に立てそうではあるが……それだけで倒しきれるものではあるまい? 英雄殿」
そう言ってラディウスの方へと顔を向けるアルディアス。
それに対し、ラディウスは腕を組み答える。
「はい猊下。仰る通り、いくら広範囲かつ高威力の攻撃魔法といえども、それだけで全ての魔物を倒すのは正直厳しいと言わざるを得ません」
――城ひとつ吹っ飛ばせるような威力の魔法もなくはないが……後が怖いからな。あれを使うのは最後の最後……どうにもならない時の切り札だ。
幸い、今の所あの規模の魔物の軍勢であれば、それが必要になる事は正直ない。
だから、これが魔軍事変であるのかどうか、そして魔軍事変であるのなら、魔物を率いている奴が何者なのか……それを知る為にも、何もかも纏めて吹き飛ばすのは避けたい所だ。今後の対策が立てづらくなってしまうからな。
ラディウスはそんな事を考えながら、
「――しかし、あの魔物を率いている存在をどうにかすれば、広域攻撃魔法を数発も撃てば恐慌状態に陥るはずです。なので、まずは魔物を率いている存在の炙り出し、そこを攻撃をしようと考えています」
と、そんな風に言葉を続けたのだった――
思ったよりも長くなってしまったので、やや中途半端な位置ではありますが、一旦ここで区切りました。
というわけで次回の更新ですが……明後日、月曜日を予定しています!




