第10話 魔軍事変。英雄と神剣の聖女。
――うん? 攻め寄せてきている魔物の数が急に減ったような……
聖騎士たちを支援する形で魔物を薙ぎ倒しながら、ふとそう感じるラディウス。
と、その直後、「ラディー!」という自身を呼ぶ声が、ラディウスの耳に届く。
――この状況でも聴こえるという事は……拡声魔法か。
そして、拡声魔法を使って呼びかけて来るのは……セシリアたち以外いない。
ラディウスはそんな思案を巡らせつつ、声のした方へと視線を向ける。
するとそこにはやはりというべきか、セシリアたちの姿があった。
「こっちにいた魔物は、あらかた片付けたのだわーっ!」
クレリテが拡声魔法でそう告げると、それを聞いていた聖騎士たちが、にわかに活気づく。
「ここにいる魔物を一掃すれば、一旦安全を確保出来そうね。……まあ、まだ村の外には、結構な数がいるっぽいけど」
マリス・ディテクターを使ったルーナが、ラディウスに対してため息混じりに言う。
「そうだな。とはいえ、村の外なら広範囲を攻撃出来る魔法とかが使えるようになるし、どうにかなるさ」
「それもそうね」
と、ふたりがそんな会話をしている間にも、士気の高まった聖騎士たちや、セシリアたちによって瞬く間に魔物の数が減っていく。
……教会の前から動く魔物の姿がなくなるまで、そう長い時間はかからなかった。
◆
「猊下!」
教会に攻め寄せていた魔物を殲滅した所で、フィルディオがアルディアスの姿を見つけたらしく、声を大にして呼びかけながら屋根から飛び降りた。
――猊下……アルディアス枢機卿か。あのサーコートを身に纏った人……か?
ラディウスはフィルディオの走っていく先に立っている、いかにもな雰囲気を漂わせた人物へと視線を向けながら、自身も屋根から飛び降りる。
「フィルディオ卿、やはりそなたが援軍を――英雄殿を連れてきたのか」
アルディアス枢機卿が、フィルディオと、その後ろから歩いてくるラディウスたちを見ながら言う。
「はい、猊下。守備隊を動かす事は禁じられておりましたが、英雄殿に援軍をお頼みする事に関しては禁じられておりませんでしたゆえ……」
「ふむ、たしかにその通りではあるな。その事に呆れるべきか称賛すべきか少し迷う所はあるが……窮地を脱する道筋が立ったという意味では称賛すべきであろう。良い判断であったぞ、フィルディオ卿。我は――我らは、そなたの働きに感謝する」
フィルディオの説明に対し、アルディアスがそう言葉を返した所で、それを見ていた聖騎士たちが、フィルディオを称えるように自らの得物を掲げ、鬨の声を上げた。
「ありがとうございます猊下。しかし、私にはもったいなきお言葉――称賛でございます。その称賛は私ではなく、圧倒的な力によって、魔物どもを打ち払いし英雄殿たちにこそ、ふさわしいものであると存じます」
フィルディオはそんな風に言って、ラディウスたちの方を見る。
アルディアスはその動きに合わせるようにして、ラディウスたちの方へと顔を向け、
「――皆様、此度はこの村の救援に駆けつけていただき、一同、感謝の念に堪えません! このアルディアスに至っては、感謝のみならず万感の思いに満ちております!」
という大仰な謝辞の言葉と共に、胸の前で両手を組んで頭を軽く下げる神剣教会式の敬礼をした。
「いえ、大規模な魔物の襲撃とあっては、放っておくわけにはいきませんし、間に合って良かったです」
「人々の平穏を脅かす存在はすべからく排除すべし、なのだわ!」
ラディウスの言葉に続き、クレリテがそんな風に言う。
「その通りです。神器に選ばれし聖女たるもの、魔を放っておくわけにはいきません」
セシリアもまた、聖女モードの口調でそう告げると、神器の剣――と、教会では云われているが、実際にはただの剣型のガジェットである――を掲げた。
その姿に聖騎士たちから感嘆の声が上がる。
――ほう、そこでソレを取り出すか……。実に良く分かっている。
なんというか……普段の言動はアレだけど、こういう時は『さすが』といった所だな。
と、そんな事を思うラディウスだった。
セシリアが聖女だというのを、本当に忘れそうになります(何)
それはそれとして、村の中の魔物が一掃されセシリアたちも合流したので、第5節ももうあと少しといった所(大体2/3を少し過ぎた所)です。
という所で次回の更新ですが……明後日、土曜日の予定です!




