第9話 魔軍事変。銃と杭打ち魔法。
「なんだか見た事のない形状をしているけど……それは?」
銃を手にしたラディウスに対し、当然とも言える疑問を口にするルーナ。
「これは『銃』って呼ばれる代物だ。まあ簡単に言えば、クロスボウと同じく射出するタイプの武器だな」
「射出タイプ……。ということは、その穴から何かを飛ばすって事なのかしら?」
「さすがに理解が早いな。銃は普通、ここから『弾丸』って呼ばれる物を飛ばすんだが……こいつはガジェットだからな。弾丸がなくても色々出来る。例えば――」
ラディウスはルーナに対して説明しながら、今まさに聖騎士に襲いかからんとしている魔物――シャロウ・サハギンに照準を合わせ……そしてトリガーを引いた。
直後、バシュゥゥン! という甲高い音と共に発射された青い光線が、シャロウ・サハギンを穿ち貫く。
何が起きたのか理解する間もなく、その場に崩れ落ちるシャロウ・サハギン。
「こういうのとか……」
と言いつつ、別の魔物――ウェアタイガーに照準を定め、トリガーを引くラディウス。
すると今度は、ダダダダダッというけたたましい音と共に、橙色の楕円の光弾が、目にも留まらぬ速さで連続射出され、瞬く間にウェアタイガーを蜂の巣にした。
そこで、さすがにラディウスの存在に気づいたらしく、コウモリのような見た目だが、大きさが何倍もあり、4つの赤い手のような物が顔の下に生えている魔物――ブラッディ・ファーキラー2体が、ラディウス目掛けて突っ込んでくる。
しかしラディウスは、それに対して銃を構え、
「こんなのもある」
という言葉と共にトリガーを引いた。
直後、ドラゴンのブレスを思わせる勢いで、銃口から紫色のネバついた液体が放射され、ブラッディ・ファーキラーに襲いかかる。
最初は何も効果が出ず、欠陥かと思われた。
しかし、
「ギ、ギィ……ガァ……」
「ゲギ……グギィ……」
2体のブラッディ・ファーキラーが、そんなうめき声と共に身体を痙攣させたかと、思うと屋根の上に落ちてくる。
「麻痺毒まで放てるの? ――穿っ!」
問いかけながら、屋根の上で麻痺してもがくブラッディ・ファーキラーを穿ち貫き、トドメを刺すルーナ。
――いつの間に槍を……って違うな、あれはあくまでもクロスボウ型のガジェットにすぎない。
ガジェット――クロスボウの先端部分を、対象に向かって突き出すその瞬間に、始動ワードを発する事で、先端から魔法の杭を伸ばしているようだ。
……まあ、要するにパイルバンカーって奴だな。まったく……なんつー魔法を組み込んでんだか……
ルーナの手に持つ得物を見ながら、そんな事を思うラディウス。
そして、先程のルーナの問いかけに答える形で、
「まあ、あくまでも麻痺毒と同じ性質を持った魔法、だけどな。仕組みとしては、マークスさんを蝕んだシャドウコラプスの魔法に近い。あれは身につけた者に対して発動する魔法だったが、今のは放射される液体――といってもただの液体ではなくて、魔力を帯びた液体なんだが――に対して発動する魔法が込められているんだ」
と、説明した。
ルーナは、なるほど……という納得の言葉を口にしつつ、関心を持った様子で銃を見る。
「にしても……クロスボウ型ガジェットにパイルバンカーの魔法を組み込むとは思わなかったぞ」
「パイルバンカー……? って、あー、これの事?」
ラディウスの言葉に、ルーナがもう1体のブラッディ・ファーキラーにトドメを刺しつつ、自らが生み出した魔法の杭を指し示す。
ラディウスがその通りだと言って頷いて見せると、
「弓とかクロスボウとか、遠隔攻撃のための武器って、敵に接近されると何も出来ないじゃない? その弱点を克服する手段が欲しかったのよね」
なんて言葉を返すルーナ。
ラディウスはそんなルーナを見ながら……
――さっきの懐中電灯……に組み込まれた魔法剣といい、このパイルバンカーといい……ルーナの発想は独創的というか、ロマンを実用レベルで実現しているというか……いやはや、なかなかに面白い。
そして……ある意味、天才的だと言っても良いだろう。やはりルーナにガジェット技術を教えたのは正解だったな、色々な意味で。
などという事を考えつつ、眼下の魔物たちを撃ち倒していくのだった。
パイルバンカーの登場です!
……と言っても、炸薬ではなく魔法で打ち出す杭なので、正確にはマジックパイルバンカーとでも言えばいいんでしょうかね……?
とまあ、それはさておき……次回の更新ですが、明後日木曜日の予定です!