第8話 魔軍事変。アルディアス枢機卿。
「今の輝く鳥の群れ……あれは一体なんだったのでしょうか?」
「幻覚……? いや、皆が同じ光景を見ていて、更に魔物の数も減っている以上、それはないか……」
「その前に現れた紫色の光の柱……ライトニングピラーに似ていたわね。……太さが段違いだったけど」
「だとすると、あれは魔法……? しかし、あのような魔法は……」
小ぢんまりとした教会の前で、アルディアス枢機卿を守る者――聖騎士たちが口々にそんな事を言う。
「――なんにせよ、魔物の群れに抗する事が出来る者が、新たに現れたというのは僥倖といえよう」
白を基調としつつ、青と金の刺繍を施したサーコートを身に纏った男性が、屋根の上から強襲してきた短剣を持つ二足歩行の魚――シャロウ・サハギンを、槍で一突きにしながら告げる。
「……それと、上にも注意する事だ。魔物は正面から正々堂々と来るとは限らん。正面から来た敵を掃討したからと気を抜かぬようにな」
「も、申し訳ありません! 猊下!」
サーコートの男性――アルディアス枢機卿の忠告に対し、頭を下げて謝罪を口にする聖騎士。
それを聞きながらアルディアス枢機卿は思案する。
――もしや、フィルディオが援軍を連れてきたのか?
だが、彼の街の守備隊にあのような魔法を使える者は……
と、そこでふと思い至る。
今日会う予定になっている『グランベイルの英雄』が彼の街にいる事を。
――そうか。敢えて目立つ魔法を使って、こちらに存在を知らせてきたのか。
だが、マクベイン殿からの連絡によれば、街へ来ている英雄たちの人数はそう多くはないはず。
つまり、ひとりひとりが魔物の群れを相手に出来る程の強さという事になる。
……ふむ、グランベイルの司祭殿が太鼓判を押す理由が良く分かるというものだ。
あまり戦闘面における強さの報告がなかった故に、実の所は伯爵不在の混乱を鎮めるために、あれこれと脚色して無理矢理英雄に仕立て上げただけなのではないか? とも考えたが、なるほどどうして戦闘面においても優秀であったようだ。
であれば……
「――先程のあれは、おそらく『グランベイルの英雄』が放った魔法だ」
そうアルディアスが告げると、聖騎士たちが、にわかに活気づく。
「あれが英雄の魔法……」
「圧倒的な強さを持つという噂の……」
などと口々に発する聖騎士たち。
ちなみに、グランベイルでの話はラディウスの預かり知らぬ所で、かなり脚色されており、聖騎士たちが知る情報も、その脚色された情報だったりする。
……もっとも、先程ラディウスが放った魔法や、それらの魔法を行使する事による魔物の殲滅の速さによって、その脚色された情報に、事実の方が追いついてしまっていたりするのだが。
新たな魔物の一団が接近するのを視界に捉えたアルディアスは、士気向上――鼓舞の意味も込め、声を大にして言い放つ。
「つまり! 英雄たちは間近まで迫っているという事だ! 気炎万丈の戦いで、英雄たちに我らの居場所を伝えるのだ!」
そのアルディアスの言葉に、聖騎士たちは気勢を上げ、迫りくる魔物に逆に斬り込んでいく。
……そして、その音はラディウスたちの耳に届いた。
「激しい戦闘音が聞こえてくるわ!」
その耳で剣戟の音を拾ったルーナが声を大にして言う。
「ああ。全く見えないが、この先みたいだな」
冷静に、音が聞こえてくる方を探りつつ頷くラディウスに、
「ですが、少々道が入り組んでいますね……」
と、周囲を素早く見回しながら告げるフィルディオ。
ラディウスは、たしかにその通りだと思いつつ、近くの民家の屋根を見ると、
「――上から行きましょう。跳躍力を高める強化魔法を自身に使ってください」
と告げて、即座に強化魔法を使用。跳躍力を上げ、近くの民家の屋根へと飛び移った。
それは、家やら段差やらが多数ある地上を進むよりも屋根の上を飛び移っていった方が時間がかからずに済むだろうと判断した為だ。
そうして屋根から屋根への飛び移りを5回ほど繰り返した所で、聖騎士たちと魔物たちとが、小川沿いの小ぢんまりとした教会の前で激しい戦いを繰り広げている光景が、ラディウスたちの目に飛び込んできた。
「……あの教会、周囲よりも低くなっている場所に建っていたのか。なるほど、どおりで見えないはずだ。――しかし、既に乱戦状態って感じだな……。これじゃあ広域攻撃魔法で一気に吹っ飛ばすってわけにはいかないな……。確実に味方を巻き込んでしまう」
ラディウスはそう呟き、それならば……と、ひとつのガジェットをストレージから取り出す。
それは『銃』の形をしたガジェットだった。
いつもより若干長くなりました……
何気にラディウスって、今まで武器らしい武器を持っていなかったりするんですよね。どんな代物なのかは次の話で……
という事で、次の更新ですが……明後日の火曜日を予定しています!




