第7話 魔軍事変。空を舞う光と闇の鳥。
「サーペンタインフロスト・改!」
フィルディオが発したその言葉と共に、白い光の軌跡が地を這うようにして進みながら、その進路上の全てを凍てつかせていく。
ベースとなる魔法自体は、マクベインが以前使った魔法なので『進路上のものを凍結させる効果』という面では同じだが、改というだけあり、見た目に明らかな違いが出ていた。
まず地を這う軌跡の光が強い。
さらに、その数が本来のその魔法よりも圧倒的に多い。
そしてそれは、簡単に言えば威力も攻撃範囲も段違いという事である。
結果、マッドロックブロブの群れは、瞬く間に凍りついていき、あっという間に壊滅する事となった。
泥の魔物――ある意味、水気が多い存在であったがゆえに、その効果が最大限発揮されたというわけだ。
「こ、これはたしかに、並のサーペンタインフロストとは威力も範囲も段違いですね……。先程使った『ルミナスレイン』も強力な魔法でしたが、この魔法もまた凄まじいものです。――いえ、改良されたものなので、凄まじいものへと変貌している、と言うべきでしょうか。なんにせよ、あのマッドロックブロブの群れを、こうも容易く一掃出来るとは思いませんでした……」
魔法を放ったフィルディオが、マッドロックブロブだった物の方へと視線を向けたまま、そんな驚愕と感嘆の入り混じったなんともいえない声を発した。
と、次の瞬間、民家の屋根の先――離れた場所に紫色の光柱が出現する。
「あれは……ライトニングピラー?」
天高くまで貫くその光柱を見上げながら言うルーナ。
それに続くように、ラディウスはやれやれと言った表情で首を横に振り、
「また、ド派手な魔法を……」
だが、すぐに何かに気づいたような顔になり、
「いや……そうか。アルディアス枢機卿や聖騎士たちに見えるくらい、派手にぶっぱなした方が俺たちが来た事が伝わるからいいのか」
と誰にともなく口にすると、すぐにガントレット型のガジェットを装着した手を頭上へと突き出し、魔法を発動する。
「――リパルション・バラージッ!」
直後、10を超える白と黒、2種類の魔法陣が中空に出現。
そこから立て続けに魔法陣の色と同じ、白と黒の鳥――否、鳥の形をした『光』と『闇』が、幾つも幾つも幾つも生み出され、空を飛びまわる魔物の群れ目掛けて、飛び上がっていく。
「ガッ!?」
「ギャッ!?」
「グゲェェ!?」
飛翔する光の鳥と闇の鳥が魔物に衝突する度に、そんな断末魔が響き渡り、魔物が地面へと墜落していく。
暗く重い雨空の下、白い輝きを放つ鳥と、黒い輝きを放つ鳥の群れが、乱れ舞いながら魔物を駆逐していくその様は、まさに神秘的と言わんばかりの光景であった。
ひとしきり空にいる魔物を掃討した所で、
「よし、こんな所か。これだけド派手にやれば、アルディアス枢機卿側にも味方が来た事が伝わるはず」
と、そんな風に言うラディウス。
それと同時に魔法陣が消滅し、鳥もまたその姿を消した。
「たしかにそうですね……。いやはや、凄い神秘的な魔法でした。英雄殿の側にいなければ、私はあれを奇跡かなにかかと思ったでしょう」
フィルディオが腕を組みながらそんな感想を口にして、首を縦に2回振る。
「あれなら確実に気づいてくれそうね。というか、あんな魔法もあるのねぇ……。ちょっと術式の構成が気になるわ……」
言いながらラディウスに対して、チラチラと視線を送るルーナ。
術式に興味津々で、解析したくてたまらない、といった所だろうか。
「……街に戻ったらこれを貸してやるから、好きに解析すればいいんじゃないか?」
そう言ってガントレット型のガジェットを指さすラディウス。
「いいの?」
「まあ、減るもんでもないしな」
「だったら、急いで魔物を殲滅して、少しでも早く街に戻らないと!」
ルーナはそんな風に言うと、手に持った懐中電灯型のガジェットを構え、「せいっ」という掛け声と共に、白桃色に輝く魔法の刃を発生させた。
――な、なんか、急に言動がセシリアみたいになったぞ……
ってか、ルーナはなんで携帯式照明ガジェットに、魔法剣の術式――近接戦闘用魔法式なんて組み込んでんだ?
ボタンひとつで、懐中電灯がビームの剣に早変わり! ……みたいな発想なんだろうか?
夜道で襲われた時に、役に立つかもしれないけど……安全性に難がありすぎるよなぁ……
などと呆れるラディウスを尻目に、ルーナは魔物の群れへと突貫し、魔法の刃をブンブンと振り回し始めるのだった。
リパルション・バラージって、見た目は凄く派手な魔法ですけど、効果自体は単純というか……光属性と闇属性の(鳥型の)魔力塊を敵にぶつけているだけだったりするんですよね。
もっとも、放たれる魔力塊の数が凄まじいので、威力もかなりのものではあるのですが。
とまあそれはそれとして、次回の更新は明後日、日曜日の予定です!




