第6話 魔軍事変。改造魔法と魔物の群れ。
「う、うわぁ……気色の悪い魔物が出て来たわね……」
――デカいダニだし、コブにしゃれこうべみたいな模様があるし……で、気色が悪いという感想が出てくるも、まあ当然と言えば当然だよな。
俺もあまり直視していたいものではないし……
なんて事を思いつつラディウスは、顔をしかめながらアンブラル・マイトを見るルーナに対し、
「……そうだな。あれは俺の方で倒しておくよ」
と、告げた。
「そうしてくれると助かるわ……。代わりに空から来る方の魔物は私が迎撃しておくわね」
そう言ってクロスボウ型のガジェットを、自分用に作ったストレージから取り出すルーナ。
そのルーナの言葉通り、アンブラル・マイトの動きに合わせるかのように、翼の生えた双頭の人狼――デュアル・ライカンスロープが上空におり、ラディウスたちの方へ視線を向けていた。
「ああ、こっちは任せておけ。昨日の夜、丁度いい物を作ったから、それを食らわせてやるさ」
ラディウスは肩をすくめながらルーナにそんな風に答える。
そして、バトンのような形状のガジェットをストレージから取り出し、「バースト!」と叫びながら、勢いよくダニ型の魔物――アンブラル・マイトの群れへ向かい、それを放り投げた。
そのまま放物線を描いて飛んで言ったそれは、いい具合に群れの中心あたりへと落下。
直後、荒れ狂う青白い電撃が落下地点を中心に、円形に広がりながら、アンブラル・マイトの群れを飲み込んでいく。
当然のごとく、すぐに幾つもの断末魔が響き渡り、アンブラル・マイトは次々にその場で崩れ落ちていった。
それを見ながらラディウスが、
「ま、ああいうのは一気に一掃しちまうのが良いよな」
と言うと、ルーナがクロスボウ型のガジェットを使い、空中から迫るデュアル・ライカンスロープ目掛けて金色に煌めくボルトを乱射しながら、
「そうね。もっとも……出来れば、粉々に原型を留めない状態にして欲しかった所だけど」
なんて事を言った。
「……それはまあ……わからんでもないが……まわりの家を巻き込み兼ねないからなぁ……」
ラディウスは、アンブラル・マイトの屍を一瞥しつつ、そんな言葉を返す。
「今のは……スパークネット……? しかし、あれは暴徒鎮圧用のもので、あんな強力な殺傷力は……いやそもそも、何故あの奇妙な形状の棒を投げただけで……?」
と、驚愕と疑問が入り混じったかのような表情で、呟くように言うフィルディオ。
ラディウスは、こちらの死角を突くかの如く、民家の隙間を縫うようにして低空を滑空しながら接近してきた毒々しい緑色のカラス――ポイゾナス・クロウを、ストーンフォール・改で押しつぶしつつ、その疑問に答える。
「威力の方は、スパークネットの術式――構成を弄って高めてあります。また、投げただけで発動したわけではなく、この中央部分を握った状態で、『バースト』という言葉を発する事で5秒後に起動する様にしていたりするんですよ」
――要するに魔法を放つ手榴弾なんだけど、手榴弾って、この世界にはまだないしな……
まあ、もしかしたらあちら側の世界の方には、似たような物が既にあるかもしれないけど……
「なるほど……。術式の改変に関しては知っていましたが、まさかそこまでの改変が可能であるとは……正直言って想定外です。さすがは英雄殿ですね」
「さすがという程、特異な事をしているわけでもありませんけどね。同じような改造は、ルーナでも出来ますし」
そうラディウスが言った直後、
「ゲイルインパクト・改ッ!」
というルーナの声と共に、緑色に見える竜巻が水平に生み出された。
そしてそれは、行く手に立ち塞がった粗末な鎧を身に纏った二足歩行の虎――3体のウェアタイガーへと、まるでドリルの如き勢いで突っ込んでいく。
ウェアタイガーたちはそれに対して耐えようと試みるものの……まったくの無駄な抵抗であった。
あっさりと吹き飛ばされ建物の壁に激突。
そこへ先程の金色に輝くボルトが打ち込まれ、ウェアタイガーたちは、その動きを永遠に止めた。
「――とまあ、あのゲイルインパクトを改良したのはルーナですからね。術式の根本的な構成とか構築方法とかを理解すれば、割と簡単に出来ますよ」
「そ、そういうものなのですか……?」
「はい、そういうものです。あ、ちなみに元の魔法から改良を施したものでしたら、そのガジェットに組み込まれている魔法の中にもありますよ」
そんな風にラディウスがフィルディオに対して告げた所で、4つの腕を持つ泥の魔物――正確には岩を取り込んで腕のような形状を作っている――マッドロックブロブの群れが姿を現す。
「なるほど……。言われてみると、たしかにそれっぽい魔法がありますね。……元の魔法からどういう風に変化しているのか少し気になりますし、奴らで試してみるとしましょうか」
そんな風に言いながら、フィルディオはマッドロックブロブの群れへと視線を向けるのだった――
今回は、いつもよりも少し長めになりました。
ちなみにルーナがクロスボウ型のガジェットを使って射出しているのは、魔力の塊をボルト(クロスボウ用の矢)化した物で、『マジックボルト』という名称が一応あります。まあ、これといった捻りのないド直球な名称ですが……
さて、それはそれとして……。次回の更新ですが……明後日、金曜日の予定です!
※追記(修正点)
アンブラル・マイトを撃破した直後の会話の中に、会話の前後(上下)の繋がりがおかしくなっていた所があったので修正しました。




