第3話 魔軍事変。雨の中を進む一行。
「――街道へと出ましたが……道が泥濘んでいるせいで、思ったよりも時間がかかってしまいそうです……」
ラディウスたちの乗る馬車の御者台からそんな声が聞こえてくる。
御者台にいるのは、例の法衣服の男性――フィルディオだ。
ちなみに、出立する時に軽く自己紹介済みだったりする。
「でしたら、フィルディオさん。御者台の横に取り付けたガジェットの青い方を起動してください。真ん中の部分を右に回せばいいです」
ラディウスがフィルディオに向かってそう告げると、
「これですか?」
と言いながら、3つの節で構成され、六角柱の形をした青いガジェットの真ん中部分を、言われた通りに右へと回してみるフィルディオ。
するとその直後、馬車の揺れが停止し、滑るように動き出した。
「こ、これは一体……? 急に音もなく走るようになった気がしますが……。あと、なにやら地面の方が淡い青の光に満ちているように見えますね……」
「ほんの少しだけですが、車体が宙に浮いているんですよ。……といっても、馬に引っ張って貰わなければ動きませんけどね。――街中だとちょっと目立つので使えませんでしたが、封鎖されて人通りのない街道であれば問題ないと思いまして」
驚くフィルディオに対し、そんな説明をするラディウス。
「さ、さすがは英雄殿ですね……。雨除けの障壁だけでも驚きなのに、このような魔法まで生み出してしまわれるとは……」
「いえ、雨除けの障壁の方は、俺が作ったんじゃなくてルーナが作った物ですよ」
ラディウスは感心しきりのフィルディオにそう告げると、ルーナの方を見て、
「たしか、元々の用途は水しぶきとかを防ぐ為……だったっけか?」
と、問う。
「ええ。水飛沫だけじゃなくて、魔物の放つ毒とか溶解液みたいな体液の類も防げるわ。だから『ディズ・スパイダー』とかが出てきても安心よ!」
語気を強めてそんな風に答えるルーナ。
それを聞いてラディウスは思った。
――なんか妙にディズ・スパイダーの所を強調していたな……
もしかして、アレがトラウマにでもなっているのだろうか……?
と。
「なんとそうでしたか! 英雄殿だけではなく、ルーナ殿も高い技術を有しているのですね! いやはや、皆さんがおられれば、千人力どころか万人力ですな!」
「い、いえ、それほどでも……。――ですが、全力は尽くさせていただきます。魔物に平穏な生活を奪わせるつもりはありませんので」
フィルディオの褒め言葉に少し照れながら、そんな言葉を返すルーナ。
「――じゃあ、魔物を駆逐するためにも、俺たち4人で一気にガジェットを仕上げるぞ」
「え、えっと……大丈夫かな? 爆発したりしない……かな?」
ラディウスの説明を聞いたセシリアが、不安げな表情を見せる。
それに対してルーナが、
「聖女様、大丈夫ですよ。これからやるのは、どれも基礎的な技術しか使わない工程ばかりです。さすがに爆発するような事はありません」
と、そう言って安心させた。
「そうなのだわ。このくらい朝飯前なのだわ」
クレリテがそんな風に胸を張って言った直後、その胸――ではなくて、腹がクゥと鳴る。
「はう……っ!? ……そ、そういえば別の意味でも、朝飯前だったのだわ……」
なんて事を赤面しながら言うクレリテだった――
村に着くまでの移動部分が思ったよりも長くなったので、一旦ここで切りました。
そして、次回の更新ですが……土曜日を予定しています!




