第2話 親子との会話。ソルムの薬液と伯爵。
「……ソルムの薬液は、精製が面倒というか……専用の精製設備が整っていないと、作れなかったはずだが……あの村にそれがあるのか? 前に村に訪れた時は、村の中とかしっかり見ていなかったから、良くわからないんだが……」
娘の方を見て疑問を口にするラディウス。
「ははっ、普通に考えたら、レマノーのような田舎の村にそんな大それた設備があるとは思いませんよね」
娘の代わりに父親の方が、そんな風に笑いながら言う。
「え、ええ、まあ……」
と答えたラディウスに対し、
「ところがあるんですよ、これが! です!」
今度は娘の方が勢いよくそう言ってくる。
「そ、そうなのか……。だが、何故グランベイルとかじゃなくて、レマノーに?」
「ヴィンスレイド元伯爵がどこかの機関に湖の調査を依頼した所、あそこの湖の成分がソルムの薬液に使うのに丁度良い事が判明したらしく、元伯爵の指示の元、村に精錬所が作られたんですよ」
「ついでに言うと、あの辺りの土壌は、薬草を作るにも適しているんだとか、です」
ラディウスの問いかけに親子が揃って説明してくる。
「なるほど……」
そう答えながらラディウスは考える。
――設備を整えた上に、湖の成分分析までしたのか……
だが、水質があの薬液に影響するなんてのは聞いた事がないが……
「……ちなみに、精製されたソルムの薬液はこのように行商で売っていたのですか?」
ふと気になったラディウスは、そんな問いかけをした。
「いえ、これまでは精製した物は、ヴィンスレイド元伯爵が回収していました。精製した分だけ税金が安くなっていましたので、元伯爵がどこかに降ろしていたか、御用商人が買い取っていたかではないかと」
という行商人の言葉に、なるほどと頷くラディウス。
「あ、でも、ヴィンスレイド元伯爵は上前をかなりはねていたんですです」
「ん? どういう事だ?」
ラディウスは、娘の言葉に首を傾げながら問う。
「あの悪徳伯爵がラディウスさんによって倒された事で、ソルムの薬液を自分たちで売りに行く必要が出たわけでして、です。それで、どのくらいの値段なのかと相場を調べてみましたですが……なんと、安くなっていた税金額の実に3倍以上だったんですよっ、ですっ!」
そう言って指を3本ピッと立てる娘。
「なるほど……。でもそれって、精錬所の設置にかかった金の回収――いわゆる設備投資の回収とかが含まれているんじゃないのか?」
ラディウスは、かつての地球での事を思い出しながら、そんな風に言う。
「いえ、あの精錬所は、悪徳伯爵の指示で作りましたですが、その費用は村が負担していましたです」
「……そうなのか。設備投資もせず、出来たものは安く買い叩く……か。それはまたなんともケチくさいというか、悪徳商人めいているというか……」
「なので悪徳伯爵って私は呼んでいるんですよー、です」
「ああ……そういう意味なのか」
娘の言葉に頷くラディウス。そして――
――しかし、そうまでして獲得したソルムの薬液はどこへ行ったんだ?
セシリアやマクベインさんを通して、あの屋敷の調査情報は俺にも伝わっている。
だが、あの屋敷にも、あの屋敷に残されていた取り引きの記録にも、ソルムの薬液なんて物は出てこなかった。
いくらなんでも、見落としたなんて事はないだろうから、秘密裏にどこかへ流れていると考えた方がいい。
マーカスさんから購入していた紅冥晶の用途に、記録すらないソルムの薬液……か。
明らかに何か繋がりがありそうだが、その2つの組み合わせで出来る物について、俺は知らないな……。メルや妖姫あたりなら、何か知っていたりするんだろうか?
まあもっとも、残念ながら向こう側は、状況的にそれを聞けるような状態ではないのだが……
と、そんな事を思案するのだった――
このふたり、父親だの娘だのと書いているので名前がなさそうに見えますが……ちゃんとあります。
次の話で出てきます! ……多分。
というわけで、次の更新ですが……明後日の金曜日を予定しています!




