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第1話 親子との再会。ソルムの薬液。

 ――さて、どうしたものかな。

 幸い、時を遡ってくる前と違って、今の俺は徹夜くらいどうとでもなるし、枢機卿は午前中、それも早い内に来るはずから、このまま待つのが良いのは間違いないんだが……ただ待つだけというのもなぁ。

 飯を食うのは……前回同じ状況の時に寝落ちしたし、止めておこう。

 とすると……少し外を――朝のカレンフォートを散歩してくる、とかが良さそうだな。

 

 思考の結論を出したラディウスは、作ったガジェットをストレージに収納し、宿の外へと向かう。

 

 ――時間的に夜が明けていて良い頃なのに、なんだか暗いと思っていたが……曇りだったのか。

 それに、空気が湿っている……。この辺りは空気が湿ると確実に雨になるし、注意しておいた方がいいな。

 

 外に出た所で、ラディウスは鈍色の雲に覆われた空を見上げ、そんな風に思った。

 そして、雨が降ってきても良いように、散歩するのは近場にしておこうと考え、とりあえず大通りの方へ行ってみる事にする。

 

 すると、大通りに向かうに連れて、曇天なぞどこ吹く風といった感じで、多くの人が行き交い、喧騒に満ちてきた。

 ラディウスの視線の先に、昨日はなかった露天が多数が見えてくる。

 

 ――なるほど……交通の要所であり、交易、商業の都市として栄えたカレンフォートだけあって、早朝は大通りで市が開かれているのか。

 しかし、これが一瞬にして出来上がって、またすぐに消えるんだから凄いな……

 

 多数の露天と人でごった返している大通りの朝市を眺めながら、そんな感想を持つラディウス。

 そして、その雑多な朝市の中を特に目的もなく歩いていくと、露天の1つに以前見た顔を見つけた。


 あれは……王都でフィルカーナ糖を売っていた行商人と、その娘さんか……と思いながら、折角なので声をかけてみる事にした。

 

「王都だけじゃなくて、こっちにも売りに来ているんですね」

「あ、ラディウスさん! お久しぶりですです」

 行商人よりも先に、娘の方がラディウスの声と存在に気づき、そう口にした。


 ――相変わらず語尾が変な喋り方だなぁ……別にいいけど。

 ってか、俺あの時、名乗ったっけか?


 と疑問に思ったラディウスだったが、よくよく考えれば、ふたりはレマノー村の人間なので、あの後で知った可能性もあるな……と思った。

 なぜなら教会の力によってグランベイルのみならず、その周辺の村落においても、邪悪な伯爵を打ち倒した英雄として、ラディウスの名と顔は知られていたからだ。

 

「お久しぶりです。……という程は、まだ経っていませんね」

「あ、たしかにそうですね」

 ラディウスはそう返しながら、ふたつの世界を行き来していると、体感的な経過時間が本来よりも長く感じるな、と思う。


「それにしても、まさかあの時のお客さんが『英雄』になられるとは、思いもしませんでしたよ」

「いやまあ……それに関しては、俺も想定外ですよ。そもそも……色々な都合で、無理矢理担ぎ出された感じでもありますし」

 行商人の言葉に肩をすくめながらそう返すラディウス。

 そして、ああやっぱりそういう形で名前を知ったんだな、と思う。


「そうなのですか? です。私は教会でラディウスさんの活躍の話を聞いて、凄くかっこいいと思いましたです!」

 行商人の娘が、握り拳を作った手をブンブンと縦に振りながら言った。


「あ、ありがとう。……面と向かってかっこいいとか言われた事ないから、そう言われるとなんとも照れるな」

 少し照れながら髪を掻くラディウス。

 そして、英雄の話を続けられると赤面しっぱなしになりそうだったので、

「ま、まあ、英雄云々の事は置いといて……今回もフィルカーナ糖を売りに?」

 と、強引に話の流れを変える。

 

「はい。ただ、今回は余っていたソルムの薬液も売りに来ていますです」

「ソルムの薬液? ……それって、ガジェットの魔力を回復させる事が出来る、あの?」

 娘の言葉に、そう問い返すラディウス。

 

 本来、ガジェットの魔力は自然に回復するが、複数の薬草と水を混ぜて作るソルムの薬液と呼ばれる物に浸す事で、急速に回復させる事が出来たりする。

 もっとも、急速と言っても限度があるので、枯渇状態から一瞬で完全回復とはいかないし、ガジェットの魔力回復に応じて、薬液が気化する為、何度も使えるわけではないが。

 なお、どうして魔力回復に応じて、薬液が気化するのかは良く分かっていないが、気化する事で魔力が充填されているのであろうとは言われている。

 

「はい、それですです」

 と、頷いて肯定してくる娘を見ながらラディウスは思う。

 

 ――うーん……。あれって、そう簡単に精製出来るような物じゃなかったはずだけどな……

 というか、レマノーのような小さな村に、あれを精製するための設備があるとは到底思えないんだけど……一体どういう事なんだろう?

 

 と。

ソルムの薬液は、簡単に言えばMP回復アイテムですね。

ちなみに『薬液』と言っていますが、これはあくまでもアイテムの名称でして、実際にはガジェットをそのまま入れられるような、大きい蓋付きのボトルに入っていたりします。


さて、そんな所で次回の更新ですが……明後日、水曜日の予定です!

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