第5話 メルメメルアの考え。再びレベロムへ。
「……術式の構成を頭の中で整理してみたが、たしかにその可能性は十分にありえそうだ。まあ……既に解除されてしまっているから、実証は出来ないけどな」
ラディウスはしばしの思考の後、メルメメルアに対してそんな風に告げた。
「それは仕方ないです。もちろん、これから敢えてもう一度されに行くつもりもないのです」
そう言って首を横に振るメルメメルア。
「そりゃそうだ。今からアルベリヒに会いに行くとか言われたら、さすがに止める。レストアの件を抜きにしても、だ」
ラディウスもまた、そんな風に言い、肩をすくめてみせた。
「それにしても……自分で言っておいてあれなのですが、レストアにそんな効果が――マインドコントロールの類まで解除されるなんて思ってもいなかったのです。驚きなのです」
「まあ、普通のレストアにはそんな効果はないしな。俺も術式を改良する時に、そこまでの効果になる事は想定していなかったけど」
メルメメルアの言葉に頷き、そう返すラディウス。
「むしろ、想定していたら驚きなのです……」
と、小声で呟くメルメメルア。
本当に小声だったので、ラディウスには聞こえていない。
「だがまあ……なんにせよ、だ。メルのマインドコントロールの類が解除されているのであれば、安心して今後の行動方針を立てられるな。――というわけで、改めてどうするか考えるとしよう」
そう言って思案を巡らせるラディウス。
メルメメルアもまた思案を巡らせる。
――今はアルベリヒに報告をしていない状態なのです。
つまり、レゾナンスタワーにすら言っていないという事なのです。
であれば、ディーゲルさんも当然動いていないのです。
「……ディーゲルさんに会いに行く、というのはどうです?」
「ふむ、この時点で会いに行って何か情報が得られるかは怪しいが……まあ、行くだけ行ってみるのはありか。……たしか、地下トラムは日を跨ぐくらいの時間まで運行しているんだったよな」
ラディウスはメルメメルアにそう言葉を返しつつ、テーブルの端にある小型の置き時計に目を向ける。
すると、時計の針は21時半を指し示す直前であり、今から出ても問題なく辿り着けそうだった。
「――よし、行ってみるか」
◆
「来ておいてなんだが……こんな時間に尋ねていって会ってくれるのか、っていう問題があるよな」
「……い、言われてみるとたしかにそうなのです……。怪しい人に見られかねないのです……」
レベロム自然公園駅から出たふたりは、目の前に広がる暗闇を見て、ほぼ勢いだけで来てしまったような状態である事に気づき、そんな事を口にした。
「明日の朝、出直した方が良いです?」
ラディウスの方を見て問いかけるメルメメルア。
それに対してラディウスは、少し考えた後、
「うーん……。本当はそうするべきだとは思うが……まあ、行くだけ行ってみよう」
と言って携帯式照明ガジェットを起動させて歩き出す。
メルメメルアもまた、それに続くようにして携帯式照明ガジェットを起動させ、歩き出す。
程なくして、携帯式照明ガジェットの光の先に、ディーゲルの館が見えてくる。
と、そこでディーゲルの館の一室から、照明の光が漏れている事に気づくふたり。
「……明かりがついているな」
「はいです。まだ起きておられるようなのです」
そのままディーゲルの館の玄関前へと近づいた所で、突如としてマリスディテクターに反応があった。
「この反応は……っ!」
ラディウスが反応に気づき声を発した直後、レゾナンスタワーで遭遇したドールガジェット2体が、その姿を現したのだった――
節で見ると、若干区切りが悪いのですが、レベロムへ行く前で終わらせてしまうと、ちょっと短すぎるので、次節の冒頭部分までを今回の話に含めてみました。
というわけで、その節が変わる次の話ですが……明後日、火曜日を予定しています!




