第3話 メルメメルアの思考。一つの可能性。
「ラディウスさん? どうかしたです?」
無言でなにかを考え始めたラディウスに、疑問を抱いたメルメメルアが問う。
「ああいや……ガジェットのインプラントという技術に、ちょっと気になる事があったもんでな」
――だが、これ以上思考しても結論はでなさそうだ。
というより、あちら側の世界でもう少し情報を得る必要がありそうだな。
……おそらく、この辺りが明確に判明すれば、伯爵と繋がりのあった『ビブリオ・マギアス』が、何を狙っているのかもわかりそうな気はするが……
まあ、あちら側に戻らない限りは時間が進むわけじゃないし、急いでどうこうする必要はないから今は置いておくか。今は、こちら側の方が重要だ。
「……とはいえ、今起きている事には無関係だし、そっちは後回しだな」
「後回しでいいのです?」
「ああ。今すぐどうこうしなければいけないものでもないし、今は過去に戻ってきた件とアルベリヒの件の話に戻るとしよう」
小首を傾げるメルメメルアにそう答え、話の流れを戻すラディウス。
そして、一呼吸置いてから、
「――ただ、そうは言ったものの……話を戻しても、過去に戻ってきた件については、俺にインストールされた魔法によるもので、メルもそれに巻き込まれた形だろうっていう事くらいしかわからんし、それ以上は特に何もなさそうだけどな」
と言ってラディウスは肩をすくめてみせた。
「たしかにそうなのです。だけど、私にはそれでも十分な進展――情報なのです。なにしろ、首を切り裂かれたはずなのに、気づいたら何故か冒険者ギルド内に居て、時間も巻き戻っていて、意味がわからなかったですから」
「なるほど……。それはまあ、そうだろうな。俺も似たような感じだったし」
そう答えながら、ラディウスは心の中で、もっとも……俺の場合は、それよりも前に一度、過去へと遡るのを経験していたから、そこまで混乱はしなかったが……と付け加えた。
「ま、なにはともあれ過去へ戻ってきた以上、今はまだ、あのディーゲルは死んでいないし、そもそもメルがアルベリヒに俺の話をしていないから、アルベリヒも妖姫や俺について、何も知らない状態なわけだ。となると、ここからどうするか……だな」
「その通りなのですが……まず、どうしてアルベリヒが、あんな事をしたのかが謎なのです」
ラディウスの言葉にそう返してくるメルメメルア。
「うーん……たしかにな。――というか、アルベリヒはどのタイミングで俺たちを害する事を決めたのか、だな。……俺の話を聞いてなのか、妖姫の話を聞いてなのか……」
「少なくとも、私がアルベリヒに対してラディウスさんの話をした時点では、特に不自然な所はなかったのです。『なるほど、いつものパターンですか』と言っていたくらいなのです」
ラディウスの疑問に対し、メルメメルアは、そんな風に言ってアルベリヒにラディウスの事を話した時の様子を語る。
「なるほど……。となると……妖姫の話が出た辺り、か?」
ラディウスはそう口にした後、妖姫が言っていた『自分の知っているアルベリヒ』とは違うという話を「そういえば――」と切り出して、メルメメルアに話す。
「……言われてみると、そうだった気がするですが、当時のその辺りの記憶がどうもはっきりしないのです……」
一通り話し終えた所で、そんな事を言うメルメメルア。
それを聞いたラディウスは、やはり不自然だと感じる。
そしてそれは、妖姫との会話で気づいたメルメメルアのおかしな点――不自然だと感じる部分でもあった。
ラディウスは考えていた一つの可能性をもとに、
「――ところで……メルは、どうしてそこまでアルベリヒを信用していたのに、戻ってきた後は急に信用しなくなったんだ?」
という問いの言葉を投げかけてみる。
メルメメルアはそれに対し、「え?」と口にしてしばし考え込んだ後、
「……そう言われてみると、何か変なのです……。それに妖姫様の知っているアルベリヒは、私の知っているアルベリヒでもあるのです。……あれ? だとすると、あのアルベリヒは……? え?」
なんて事を言って混乱し始める。
ラディウスはその反応に、やはりそういう事か……と思うのだった――
この先まで書いてみたのですが……どうにもこうにも、しばらく区切りをつけづらい展開になってしまったので、一旦ここで区切りました。
次話の想定の大半が事実上書き終わっているので、残りを書いて明日更新……と一瞬思ったのですが、それだけだけだとちょっと内容が短すぎたので、この先3話で想定していた内容を次の話とその次の話で進める感じで書こうと思います。
(想定している内容を考えると3話もいらない気がしたというのもあります)
そんなわけで次回の更新ですが、ある意味予定通りともいえる……明後日、金曜日の想定です!




