第2話 メルメメルアへの説明。ヴィンスレイドへの疑問。
「えっと……死んでいると思われたディーゲルさんの娘さんが、突然立ち上がって、私の首筋を刃物で切り裂いた所までなのです」
「ああ、そこまでは覚えているのか」
メルメメルアの話を聞いたラディウスがそう呟くように言うと、メルメメルアがそれに頷く。
「はいなのです。レゾナンスタワーでの出来事も、ディーゲルさんの館へ向かう事になった流れも、全て完璧に覚えているのです」
「なるほど……。たしかに俺と同じように過去へと戻ってきた感じだな」
「……あの後、一体何があったです? どうして過去へ戻ってきているです?」
ラディウスの言葉に、メルメメルアがもっともな疑問を口にする。
「あの後の話だが……実はあまり長くはないんだ。あの娘をグラビティスフィアで吹き飛ばし……いや、圧潰して排除した後、メルにレストアを使ったんだが……その直後に、どこからともなく槍が飛んできてな。俺に突き刺さった」
「へ? 槍です? ディーゲルさんの娘さんはグラビティスフィア――聞いた事のない魔法なのですが、そこは置いとくです――で倒したですよね?」
「ああ。そこは間違いない……と思う。あの凶悪極まりない破壊魔法を食らって、まともに生きている人間は見た事がないからな」
……まあ、あれが人間ではなかった、というのなら話は別だが、魔法を食らわせた時のあの感じからすると、あれが人間ではなかったなどとは到底思えない。
「という事は、他にも誰か居たという事です?」
「おそらくそうだと思うが……姿は見ていない。俺は自分にレストアを使おうとしたが、その前に意識を失ってしまったからな」
ラディウスはメルメメルアにそう言いながら、姿は見ていないが、おそらくあれを投げてきたのはディーゲルを殺害した人物だろう……と、推測する。
「で、気がついたら、こちら側にやってきた時に最初に立っていた――宮殿の監獄へ続く通路にいたってわけだ」
「なるほどなのです……。そうすると、どうして過去へ戻ってきたのかは謎という事です?」
「ああ、それなんだが……妖姫にあれこれ説明してみた所、俺がこちら側にやってきた時に、俺の中に『俺が死にかける事で発動する魔法』がインストールされたんじゃないかって言っていたな」
メルメメルアの問いに対して、ラディウスはそう答えるとカップの紅茶を飲む。
そして、ちょっとだけ冷めていたので、そのまま全部飲んでしまう。
「インストール……。言われてみると、たしかにそれならあり得るです。さすがは妖姫様なのです」
と言って頷くメルメメルア。
それを見ながらラディウスは、魔法を人間にインストールするという技法は、古代では割と一般的な手段だったんだろうか……? と思い、それについて問いかける。
「一般的といえば一般的なのですが、割と後期――彼の文明の終焉に近い頃に、一般化されるまでに至った技法なので、古代の中でも結構新しい物なのです」
そう説明しながら、メルメメルアが空になったラディウスのカップに紅茶を注ぐ。
「へぇ、そうなのか」
「はいです。インストールはガジェットの『インプラント』に付き纏う危険性を排除した結果――つまり、集大成とも言うべき技術によって確立された代物なのです」
「インプラント……? ガジェットを体内に埋め込んでいたのか?」
「ですです。まあ……インストールの普及に伴って、僅かではあるものの危険性が残ったままのインプラントの方は、急速に廃れていったですが」
「なるほど……。そりゃあ至極もっともな話ではあるな。誰だって、わざわざ危険性のある方を選んだりはしないだろうし」
そこまで言った所で、ラディウスはふと思った。
――まてよ? ヴィンスレイドはガジェットを体内に埋め込むような実験をしていたよな……
という事は、ヴィンスレイドが行っていたアレらの実験は……エクリプスは、『インプラント』技術の再現を目指していた……という事なのか?
いや、でもそうすると封魂術を研究していたのとの辻褄が合わないな……
そもそも、インストールが可能なガジェットを持っていながら、どうして前世代の技術なんか再現しようとしていたんだ?
……一体なんなんだ? この噛み合いそうで噛み合わない、妙な感じは……
と。
「~なのです」「~のです」はともかく、「~です」の時は、なんだか脱字っぽく見える所がありますね……
ちなみに、インプラントもインストールも、向こう側の世界にはなかった技術です(というか、向こう側の世界は、ラディウスの確立した技術が、事実上世界の最先端でしたし……)
それはそれとして……次回の更新は、明後日水曜日の予定です!