第1話 メルメメルアの部屋。本とティーポット。
「うーん、まるで本屋みたいだな……」
ラディウスが思った事を口にすると、
「本屋です? ……言われてみるとレイアウトは少し真似したのです」
と、メルメメルアが部屋の中を見回しながら、そう返してくる。
「ああ、そうなのか。しかし、なんだってこんなに本があるんだ?」
「それは簡単な話なのです! 鑑定士として、あらゆる知識を得ておく必要があるのですっ!」
ラディウスの言葉に対し、なにやら自信満々に胸を張ってそんな風に答えるメルメメルア。
「いやまあ、たしかにその通りかもしれないが……」
本当にそれだけなのか……? と思うも、そこは言わずに本棚へと視線を向けるラディウス。
――あらゆる知識を得ておく……と言った通り、図鑑っぽいのから技術書に歴史書、詩集や絵本の類まであるし、もう題名からじゃどういう本なのか良くわからない物まである。
まさに雑多に色々な本があって、さっき感じたように、これはもはや本屋だと言っても過言ではないな。
なんて事を思いつつ本棚を眺めていると、聞き覚えのある本があった。
――『黒き影と白き家の娘』……? ああそうか、これがさっき言っていた奴か。
っていうか……この辺り――この段はどう考えても小説っぽいネーミングの本が多いな。
この世界の小説って、どんな感じなんだろうか?
この黒きなんちゃらは、まあさっき聞いた通りだろうからその横のでも見てみるか。
興味を持ったラディウスは、そんな事を考えながら手近な本――『黒き影と白き家の娘』の真横の本を手に取ってみる。
「あ」
ラディウスが表紙をめくるのとほぼ同時、メルメメルアが驚きの声と共に、弾かれたかの如き物凄い速さで接近し、それを引ったくると、
「こ、この辺りの本は読んでは駄目なのです!」
と、必死の形相で告げる。
「お、おう……」
メルメメルアの勢いに、ラディウスはやや唖然としつつも、短くそう返す。
――今、一瞬だけ挿絵が見えたが……割とこう、濃厚なラブシーンだったな……
……ま、まあ、敢えて何も言うまい。
ラディウスがどうしたものかと思っていると、メルメメルアが引ったくった本を、本棚へと戻しつつ、
「そ、それより座って本題に入るのです」
と言って、窓の近くに置かれているテーブルへとラディウスを誘導してきた。
これ以上本の話をするのもどうかと思ったラディウスは、その誘導に従う形で、テーブルの椅子を引き、座る。
メルメメルアもそれを確認した所で、反対側の椅子を引いて座ると、テーブルの上に置かれているティーポットへと手を伸ばした。
「飲み物は紅茶でいいです?」
「ん? ああ、構わないぞ」
メルメメルアの問いかけに対し、そう答えるラディウス。
メルメメルアはポットを手に立ち上が……るかと思いきや、同じくテーブルの上に、逆さまにして置かれていたティーカップをひっくり返し、そのままティーポットの中身を注ぎ始める。
――先に淹れたものが入っているのか? でも、それはさすがに冷めているんじゃ……。いや、単純にアイスティーという可能性もあるか。
もっとも、そうだとしても温くなっていそうな気はするが。
と、思っていると、湯気と共にティーカップに紅茶が注がれていった。
「これはまた……随分と保温性に優れたティーポットだな」
「そうなのです。これは、中に入れた物が24時間程度『入れた時の状態』で保持されるというスグレモノなのです」
顎に手を当てながら納得の言葉を口にするラディウスに対し、メルメメルアがそんな説明をする。
「それはなんというか、とんでもない代物だな。うーん……? 一時的な時間停止……のような感じ……なのか?」
などと言いながら、どういう構造なのか調べようとするラディウス。
「それは後でゆっくり調べて見ればいいのです。それよりも、今は時間が巻き戻った件とアルベリヒの話なのです」
「あ、ああ、そうだな……」
ラディウスは、メルメメルアに対してそう返した後、紅茶に口をつけてから、
「――メルは、どこまで覚えている?」
と、そう問いかけた。
……本題に入る前の話が、思ったよりも長くなってしまった為、本題は次回に……
さて、そんなこんなな次回の更新は……明後日、月曜日の予定です!