第4話 時の先。案内の先。
ギルドを出たラディウスは、メルメメルアに案内される形で、街中を歩いていく。
そして、レンガ造りの大きな屋敷の前へと辿り着いた所で、
「とりあえず、ここなら会話の内容がアルベリヒに漏れる心配はないのです」
と、ラディウスに向かってそんな風に告げるメルメメルア。
「えーっと……『アパルトメント・ゲンゲツ』? もしかして、ここはメルの家……か?」
それに対して、ラディウスは入口の扉の上に掲げられていた看板を見ながら、そう問いかける。
「はいなのです。このアパルトメントの201号室を借りているのです。防諜用の術式が幾つも施されているのでセキュリティはバッチリもバッチリ、完璧なのです」
「……防諜用の術式って……。なんでそんなものがアパルトメントに……? この国の重要な人物でも住んでいるのか?」
メルメメルアの説明に、疑問を抱いたラディウスがアパルトメントの外観を見回しながら問う。
「いえ、そういうわけではないのです。――ここの大家さん、以前は国の諜報部に所属する宮廷魔工士だったのです。それで、自分の住むこのアパルトメントに、多数の防諜用の術式を設置していたのです」
「……な、なるほど? でも今は大家なんだよな……?」
「はいです。あ、ここで立ち話をするのもあれなので、話しながら私の部屋へ行くのです」
ラディウスの問いかけにそう答え、アパルトメントへと入っていくメルメメルア。
入っていってしまった以上、仕方がないのでラディウスもそれに続く。
「以前の大家さんが、更にその前の大家さんからここを受け継いだ後、この土地を奪おうとした商人が居たんだそうなのです。で、その時の騒動で当時の大家さんに協力して商人を叩きのめしたのが今の大家さんなのだそうです」
歩きながらそう話してくるメルメメルアに対し、ラディウスは顎に手を当て、
「……大家という単語が複数出てきて混乱しそうだが、まあ……おおよその経緯は理解した。その以前の大家から今の大家がここを受け継いだ事で、当時のセキュリティがそのまま残っているというわけか」
と、頭の中で整理しつつ言う。
「受け継いだというか……当時の大家さんとあれこれあって結婚したのです」
「……ああ、そういうパターンか。なんか、それだけで物語が出来そうな勢いだな」
「あ、出来ているですよ。おふたりのそのあたりのあれこれを、エンターテイメント性を強くするために、ところどころ脚色して作られた『黒き影と白き家の娘』というタイトルの本があるのです。ちなみに書いたのは、その宮廷魔工士に色々と協力した友人なのです」
「そりゃまたようやるな……」
……などという会話をしている間に、201号室と書かれたプレートのある部屋の前へと辿り着くふたり。
「……ん? このドア、カードキー式……なのか?」
ラディウスは201号室のドアにパネルのようなものが取り付けられている事に気づき、そんな疑問の言葉を発する。
「はい、その通りなのです。このカードキーをかざすと開くのです」
と言って財布から取り出したカードキーをパネルにかざすメルメメルア。
直後、ピッという音と共にシリンダーが回る音がする。
「なるほど……普通の鍵と違って、これを偽造するのは難しいな……」
ラディウスはそう口にしながら、この時点で既にハイレベルなセキュリティだなこれは……と思う。
「ですです。凄く安全なのです。――なので安心して、中へどうぞなのです」
メルメメルアがドアを開けラディウスを部屋へと案内する。
「あ、ああ。それじゃお邪魔させて貰うよ」
ラディウスは少し躊躇したが、入らないと先に進まなそうなので、そう言って中へと入る。
――これはまた、随分と本が多いな……
もっとも、本棚から溢れている……なんて事はなく、しっかりと全て本棚に収まっていて、綺麗かつ整然としている様は、性格が出ている気がしないでもない。
ただ……その本棚が四方の壁全面を覆っているような状態なのがな……
うーん……。なんというか……そう、一言で言うなら、本屋っぽい感じのする部屋だな。
メルメメルアの部屋を見たラディウスの第一印象……感想はそんな感じだった。
四方の壁……と言っているのでわかりづらいのですが、実際には左の壁にはバスルーム&トイレに繋がるドアが、右の壁にはキッチン&収納スペースに繋がるドアがあり、正面の壁には窓があります。
……が、そのドアと窓以外の全ての部分が本棚になっている脅威の部屋です。
とまあそんな所で、次回の更新予定ですが……金曜日、と思ったのですが……
諸都合でいつもの12時更新の予約……というか、日中の更新自体が出来ない可能性があり、更新が夜の変な時間になってしまった場合、それはそれでどうなのかと思いまして、確実に出せる土曜日の12時を予定しています。
その次は普通に月曜日を予定しています!




