第11話 次の手。闇と闇。
「駄目だな。既に手遅れだ」
「い、一体、ここで何があったです……?」
ラディウスとメルメメルアが少女に近寄り、その状態を確認しながら言う。
短剣は心臓に突き立てられており、これで生きている方がおかしい、といった状況だった。
「可能性としてもっとも高いのは、アルベリヒが手を回したという物だが……。俺たちがホテルを出てすぐに行動を起こしたとしても、早すぎる気がするんだよな……」
「……たしかにその通りなのです。ただ、何らかの伝達手段を使ったとかなら、ありえなくもないのです」
ラディウスの言葉にメルメメルアがそう返す。
――まあ、こちらの世界はあちら側よりも技術が進歩しているからな……。何らかの伝達手段……それこそ通信機の類で瞬時に連絡をとった、という可能性は十分に考えられる話だ。
だがそうすると、このディーゲルという男をどこかで見張っていた――殺害命令を実行した者がいる、という事になるが……そんな人間はどこにも……
そうラディウスが思った瞬間、ありえない事が起きた。
死んでいたはずの少女が起き上がり、自身の胸に刺さっていた短剣を引き抜いたのだ。
「え?」
メルメメルアは、その光景に理解が追いつかず硬直。
そのメルメメルアめがけて少女が短剣を振るった。
「メルッ!」
慌てて叫ぶラディウス。
しかし、遅い。
短剣がメルメメルアの首を引き裂き、大量の鮮血が舞う。
「い……」
発した言葉はそれだけだった。
メルメメルアの身体が崩れ落ち、床に倒れ込む。
大量の鮮血が、その身体を、服を、染め上げていく。
「くっ!」
――レストアが間に合うかどうか……っ!
心の中で焦りつつも、急いでメルメメルアへと近づこうとするが、それとほぼ同時に、少女がラディウスの方を見た。
そして、すぐさまラディウスの方へと襲いかかる。
「邪魔だっ!」
ラディウスは躊躇なく攻撃魔法――グラビティスフィアを発動。
少女の目の前に漆黒の球体――重力球が生み出される。
生み出された重力球が少女を飲み込むようにして激突。
その球体を防ごうとした少女の腕が、魔法の生み出す圧倒的なまでの超重力に捻じ曲げられ、圧潰され、引き千切られたような形になって床に落ちた。
それでも重力球は止まらず、ベキベキと骨を砕く音と共に、少女の胴体をありえない状態へとへし曲げつつ、吹き飛ばす。
――強力すぎる上に、食らった奴は圧潰されてエグい事になるから、使いたくはなかったんだが……躊躇している暇がなかったからな……。すまん。
心の中でそう呟きた直後、ドチャッっという粘ついた音が吹き飛ばした先から聞こえてくる。
音のした方で少女の身体が、グチャグチャになっていそうな気がするが、そんなグロテスクな光景を敢えて確認する気も暇もないラディウスは、無視してメルメメルアに駆け寄る。
少女が何故襲ってきたのかは不明。どうやって蘇ったのかも不明。
しかし、ラディウスにとって、今はそんな事はどうでもよかった。
あの魔法を受けて圧潰された状態から、再び蘇る事はないだろうと思ったからだ。
そして、理由だのなんだのと、そんなものは後でゆっくり調べて考えればいい話である。
それよりも、今は急いでメルメメルアに対し、レストアを使う事の方が重要だ。
なんとかメルメメルアのもとへと辿り着いたラディウスは、即座にレストアの魔法を使う。
魔法の力によって、首の傷が一瞬にして塞がっていく。
「これでなんとか――ぐっ!?」
なんとかなればいいのだが、とラディウスは呟こうとしたのだが、それを呟き終える事は出来なかった。
なぜなら、自分の身体を槍が貫いていたから。
――な!? 誰が……どこから……?
いや、それよりも、これは……まずい……
急いで……向こう側に戻って、自分にレストアを――
ラディウスはそう考え、遠のいていく意識の中で、なんとか向こう側……カレンフォート市の宿を思い浮かべる。
……そしてその直後、ラディウスの意識が途絶えた。
宿へ戻ったのか、それとも先に意識が途絶えたのか、それは本人にもわからなかった――
という所で、第2章終了です!
最後の節が想定よりもかなり長くなってしまいましたが、どうにか終了出来ました……
次回は、水曜日の更新を予定していまして、おそらく今年最後の更新になります!




