第7話 次の行き先。誰かのもとへ。
「――その人物というのは……アルベリヒか?」
ラディウスがメルメメルアに問いかける。
「っ!? 何故わかったのです!?」
メルメメルアが、ガバっという音が聞こえそうな勢いでラディウスの方へと顔を向ける。
その表情は、心底驚いたと言わんばかりだ。
「いやまあ、この話の流れ――さっきの、アルベリヒとの会話での様子について、警戒しつつ話をするという点――からして、そう考えるのが自然じゃないか?」
肩をすくめてそう答えるラディウスに、メルメメルアは目を瞬かせた後、
「あ、あー、ま、まあ……言われてみるとそうかもしれないのです」
そんな感じでトーンダウンしながら言う。
自身の言動に対して得心がいき、恥ずかしくなったのか、少し顔が赤い。
――さすがに、ここまでのメルの言動から考えて、むしろそうじゃなかった時の方が驚くってモンだからな。うん。
なんて事を考えながら、ラディウスは顎に手を当て、
「だが、何故そこに思い至ったんだ? アルベリヒは、過去に手助けした者の中に、古代の技術を用いた――そのガジェットでドールガジェットを操った者がいると言っていたし、メルもそれに同意していた気がするが……」
と、ホテルでの会話を思い出しつつ、問いかける。
「実の所、それよりも前に疑念を抱いていたのです」
というメルメメルアの返答に対し、ラディウスはなおも理解が追いつかず、首を傾げた。
「それよりも前?」
「はいなのです。素材の確保が出来たと問われた際、私が『どうにか確保は出来た』と返すと、アルベリヒさんは『レゾナンスタワーで何かに遭遇した』のかを問いかけてきたのです」
頷き、そう告げてくるメルメメルア。
ラディウスはそれを聞き、
「……なるほど。そう改めて言われてみると、たしかに話の流れとしてなんだか不自然だな。アルベリヒがどうして『俺たちがレゾナンスタワーで何かに遭遇した』という発想に至ったのかが、不明瞭すぎる。……いや、もっと具体的におかしな所があるか。何故『何かに遭遇した』と断定する事が出来たのか、という点だ」
と、思案を巡らせながら言った。
「その通りなのです。――無論、アルベリヒさんが直接やったと考えてはいないのです。どちらかというと、アルベリヒさんが誰かに指示してやらせたと考えているのです」
「それはまあ……そうだろうな。その後に『私の方で調査しておく』と言っていたのは、『その誰か』を『こいつのせいだった』と言って、スケープゴートにする為だという可能性は、十分に考えられる話だからな」
「可能なら『その誰か』が分かるといいですが……」
「今からだと、さすがにそれを特定するのは難しそうだな……。アルベリヒを問いただすわけにもいかないし」
腕を組みながら、首を左右に振ったラディウスだったが、そこでふと、脳裏にひとつの可能性がよぎった。
「いや、まてよ? ……メル、エンシェントファクトリーと悠久工房以外にアルベリヒと何らかの繋がりがあって、封魂術のガジェットが作れそうな場所、あるいは人は?」
「場所、あるいは人……です?」
ラディウスの問いかけに対して呟くようにそう返すと、下を向いて「うーん」と唸るメルメメルア。
そしてしばし考え込んだ後、急にハッとした表情を見せながら顔を上げ、
「……あ! いるです! 郊外に館を構えて住んでいるディーゲルさんという人が、作れるはずなのです! 今は人形師をしていて、ガジェットの作成などはしていないですが、その人はかつて――封魂術で時を渡ってくる前の時代で、封魂術の研究をしていたのです!」
と、捲し立てるように言い放った。
「人形師、封魂術の研究者……か。その人物が『誰か』である可能性は――」
「高いのです! どう考えても高いのです!」
ラディウスが言い終えるよりも先に、メルメメルアが声を大にして、そう口にするのだった。
というわけで、『次の行き先』は工房ではなくなりそうですね……(何)
ちなみに、もう少しで2章が終わる予定です。
そして、次回の更新は土曜日……と言いたいのですが、日曜日です orz
土曜日でも間に合いそうな気はするのですが、念の為……
(土曜日までに書く余裕が出来た場合は、その次の更新が早くなります!)