第4話 術式と紅冥晶。伯爵の購入の謎。
「気になる物……というのは何なのですか?」
「紅冥晶です」
ラディウスの問いかけにそう答えるマクベイン。
「コーメーセキ?」
首を傾げながら疑問を口にするセシリアに対し、
「加工する事で、ディアボリクチップとかアビサルチップといったパーツ――ガジェットを構成する素材の一部になる代物だな。加工の仕方を少し変えるだけで、異なる素材になるのが特徴といえるか」
と、そんな風に説明するラディウス。
「……逆を言うと、少し加工の仕方が違うだけで別の物になってしまうから、扱いが難しい代物でもあるのよねぇ……。未だに私もあれを正確に加工するのは難しいわ」
ルーナが付け加えるように、ため息混じりの言葉を発する。
「さすがに詳しいですね。……というより、サラリと聞いた事のない名称も出てきましたが……」
「そこはまあ、ラディだから気にしてもしょうがないのだわ」
マクベインの言葉にそんな風に返して肩をすくめてみせるクレリテ。
それに対してマクベインは顎を撫でながら、
「それはまあ……たしかにそうですね……」
そう言って一度言葉を切り、懐から柄に赤い水晶――紅冥晶が組み込まれた短剣を取り出す。
柄頭にリングがあり、チェーンが取り付けられてる、いわゆるリングナイフという奴だ。
「紅冥晶ですが、他にも――というより、一般的な用途としては、こういった物――スライムのような物理的な攻撃が効きにくい魔物に対して、有効打を与えられる武器や道具を作るのに使いますね。昔はその性質からブロブメルターなどとも呼ばれていたそうですよ」
リングナイフを皆に見せながら、説明の続きを口にするマクベイン。
「この辺りにスライムタイプの魔物はほとんどおらんのに、何故に伯爵はそのようなものを仕入れたのじゃろうな……?」
「ええ、それが気になるのですよ。――少しなら、まあ何かの予備と考えられるのですが……大量に購入していますからね。それも継続的に」
シェラの疑問に対し、マクベインは頷きながら言葉を返す。
「なるほど……そういう事ですか。たしかに気になりますね」
というラディウスの言葉に、ルーナは「そうね」と言って頷いた後、マクベインの方を見て問う。
「……つまり、マークスおじさんに、その辺りの事情を聞いてみたいという事ですか?」
「ええ、その通りです。帳簿や資料の類は調べたのですが、購入した記録しか見つからず、用途が不明でしたので、もしかしたらと思いまして」
「……あの伯爵、何気に説明したがりな性格だったというか……長々と語らないと気がすまなそうな感じだったので、案外マークスさんにあっさり用途を話していたりするかもしれませんね」
マクベインの言葉に、ラディウスは伯爵と対峙した時の事を思い出しながら……といった感じで、そんな風に言う。
「あー、そう言われると、たしかに私が話をした時も、ベラベラと聞いてもいない事まで説明してきたね、うんうん」
なんて事を言い、腕を組んで首を縦に振るセシリア。
「まあなんにせよ、言ってみればわかるというものなのだわ」
「ええ、その通りね」
ルーナはクレリテの言葉にそう返した所で、ハッとした表情を見せる。
そして、
「……って、そうだわ! お父さんとお母さんに、明日カレンフォートへ行く事を伝えて来ないとっ!」
と、そんな風に言い残し、急いで宿の方へと走っていく。
そんなに慌てなくても大丈夫だと思うが……と思いながら、それを見送るラディウスだった。
今回は予定通りの更新となりました。次も予定通り更新したいものです……
という所で次回の更新予定ですが……木曜日を予定しています。
次回からカレンフォートに移動しますが……恐らく、すぐに『向こう側』の話になると思います。




