第1話 術式。暴走。
――工房に、ドカン! という爆発音が響き渡る。
「うわわぁあぁあぁ!?!?」
それに続くセシリアの悲鳴。
爆炎魔法の術式構成に失敗し、その場で爆発が引き起こされたのだ。
もっとも……失敗した時点で、ガジェットに蓄えられていた魔力の多くが霧散しているため、全身が煤けて服がボロボロになるくらいで済んでいたりはするが。
「まったく……なにをして――あ」
呆れ気味に言葉を発したクレリテだったが、途中で硬直した。
直後、電撃魔法が暴走し、強烈な放電がクレリテを包み込むように発生する。
「あばばばばばーっ!? なのだわーっ!?」
――そこで、なのだわと言うのね……
なんて事を心の中で呟くルーナの手を何かが掴む。
ルーナが何かと思ってそちらを見ると、それはクレリテの手だった。
「ど、ど、ど、どうに――あががががーっ!?」
「掴まれると電撃がこっち――にぎゃふぅぅぅぅぅっ!?」
クレリテの手を伝ってきた電撃に見事に巻き込まれるルーナ。
「……なにしてんだ……。元が拘束用の魔法だから、痺れるだけで威力自体はほとんどないのが幸いだな……」
ラディウスは、セシリアにレストアの魔法を使いつつ、ため息まじりにそう口にする。そして……
――もっとも……拘束用ゆえに、痛みは普通よりもひどかったりするんだが……
と、心の中で付け加えながら、ストレージからペンダント型のガジェットを取り出すと、それを感電中のふたりの方へと向けた。
発動中の魔法をキャンセルする相殺の魔法が発動し、暴走している電撃魔法が打ち消される。
「ひ、酷い目に、あったのだわ……」
「いや、それは、こっちのセリフよ……」
電撃から解放されたクレリテとセシリアが、肩で息をしながらそんな事を言った。
それを見ながらラディウスは思う。
――セーフティの術式についての説明が不完全だったか。
もう少ししっかりと、本格的に術式を構築する前に設定……構築しておくように伝えるべきだったな……
にしても……ルーナだけじゃなくて、セシリアとクレリテにまで術式やガジェットについて教える事になるとはな……
と。
「術式を構成する時は、慎重にやらないと今みたいに暴走するから注意しろよ? あと、さっき少し言ったが、暴走してもいいように――」
「――セーフティを先に構築しておけ、よね? こういう風に」
ラディウスの言葉を途中から引き継ぐようにして、ルーナがそう言って、セーフティの術式を構築する。
「さすがはルーナだな。術式の構築が完璧だ」
ラディウスがそんな風に褒めると、ルーナは顔を赤くして、
「ま、まあ、ふたりよりも数日早く教えて貰っているし……」
と、そう答えながら頬を指で掻いた。
「むむむむむ、まずいのだわ」
「うん、これはまずい、まずいよ」
なんて事を、何やら呟くように口にするクレリテとセシリア。
――うーん? 一体、何がまずいのだろうか……?
ルーナとの技量差が付く事……か?
というか、急に仲が良くなったな……このふたり。
ラディウスが首を傾げながらそんな事を考えていると、クレリテとセシリアが、ものすごい速さでルーナに近づき、
「ルーナ! セーフティの術式の構築を詳しく教えるのだわっ!」
「ルーナ! 私にセーフティの術式について教えてくれないっ!?」
教えを請おうと、同時に声を上げる。
――あわわっ、クレリテだけじゃなくて、聖女様の顔も怖いっ、怖いわっ! ど、どうしてーっ!? 私なんか、まずい事したかしらぁぁぁっ!?
迫ってくるふたりの勢いに……気迫に飲まれたルーナは、困惑と恐怖で、思考が軽いパニック状態に陥ったのだった――
ちょっと区切りが変ですが、今回から新しい節です。
そして、今回はやたらと短いタイトルですが、術式、暴走、どちらにも複数の意味があったりします。
という所で次回の更新ですが……火曜日を予定しています。
せめて、1日置きスタイルくらいまで戻したいのですが、なかなか難しく…… orz




