第5話 賢者にして英雄の工房。障壁魔法とふたりの頼み。
「ところで、話を少し戻しますが……異端審問執政官について特に隠す事もなく、俺に対して語った――説明したという事は、俺になにか手伝って欲しい事がある……と?」
「そうじゃろうな。異端審問執行官の活動に使う魔法を組み込んだガジェットの作成を、お主に頼みたいんじゃろう。この工房の持ち主――儂のツレだった男がそうであったようにのぅ」
ラディウスの問いかけに対し、マクベインやクレリテが答えるよりも早く、シェラがそんな風に答えて肩をすくめる。
「はい、その通りです」
と、頷くマクベインに続くようにして、
「ラディの作ったガジェットの性能が凄まじかったのだわ!」
なんて事を言いながら、ラディウスが別れ際に渡したガジェットを見せてくるクレリテ。
「それを使っ――いや、自動で発動した……のか?」
「その通りなのだわ! さっき話した悪徳商人が雇っていた射手の集団が強すぎた上に、こっちはクレリテだけだったのだわ! 当然の如く大量の矢を放たれて超ピンチだったのだわ。そしたら……なんかブワーッて障壁が広がって攻撃――飛んでくる矢を全て遮断したのだわ!」
ジェスチャーを交えながら、大げさな表現で説明するクレリテ。
――ジェスチャーに集中するあまり、説明自体が少し分かりづらくなってしまっているのが玉に瑕ですね……
と、クレリテを見ながらそんな事を思い、ため息を心の中でつくマクベイン。
「まあ……矢ぐらいなら余裕で防ぐ事が出来る魔法障壁が、所有者に危機が迫った際に自動で展開する――そういう術式を仕込んであるから、当然そんな状況になったら、発動するよなぁ……」
ラディウスが呟くようにそう口にすると、
「普通の魔法障壁は対魔法がほとんどなのだわ! 矢みたいな物理的な攻撃を防ぐ事が出来る魔法障壁もなくはないけど、あそこまで見事に防ぎきるようなものは、今まで見た事も聞いた事もないのだわ!」
などと、興奮気味にクレリテが言った。
「あれほど強力な――しかも、状況に応じて自動発動する……そのような魔法が組み込まれたガジェットが作れる貴方様は、ここのかつての持ち主に匹敵――いえ、それ以上であると言っても過言ではありません。我々の活動に有用な魔法を組み込んだガジェットを制作いただきたい……と、そう思いまして」
マクベインはそんな風に言うと頭を下げ、「どうか協力いただけませんでしょうか」と、ラディウスに問う。
マクベインの言葉に続く形で、クレリテがラディウスに顔を近づけながら言う。
「お願いするのだわ!」
――うーん……。まあ、悪事に使うわけでもない……というか、その逆の用途だし、秘密裏の活動で使うのなら、そこまで目立つ物でもないはずだ。
そこまで思考した所でラディウスは、
「そうですね……望みの効果を持った魔法を――ガジェットを作れるかどうかは、わかりませんが、それで良ければ協力させていただきます」
と、告げた。
「それで構わないのだわ!」
「儂のツレですら、彼の活動に必要になるであろう魔法は全て作っておったし、お主の腕前なら作れない物はない気もするがのぅ」
クレリテとシェラがそんな風に言ってくる。
「ありがとうございます」
マクベインは礼を述べながらおじぎをした後、一呼吸置いてから、
「もちろん、不可能であろう物の制作を要求するつもりもありませんのでご心配なく。……それと、早速で恐縮なのですが、作っていただきたい魔法――ガジェットがありまして……」
と、言葉を続けた――
もうひとつの世界側の話が止まったままになっていますが、もう少しだけこちら側です……
さて、次回の更新ですが……すいません、おそらく水曜日になると思います。
その次が金曜日かそれとも土曜日になるかは、現時点では何とも言い難い所です……申し訳ありません。
追記:更新1回目
「物理的な攻」となっていた所を「物理的な攻撃」に修正しました。
誤字報告、誠にありがとうございます!(気づくのが遅れました…… orz)
追記:更新2回目
「~事」が連続していて読みづらい文章になっていた所を調整しました。




