表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/632

第3話 時を渡り出会う。セシリアに。

 ラディウスが大聖堂の中へと足を踏み入れると、そこに人の姿は一切なく、荘厳にして静謐な雰囲気に包まれていた。

 

 ――静かだな。そして、実に見事なステンドグラスだ。

 側面の壁に等間隔で配置されている、ステンドグラスの窓を見ながら、感嘆の声を心の中であげるラディウス。

 

 ――正面の祭壇部分にはステンドグラスはないんだな……

 クレリテの着ていた修道服にあった紋章とまったく同じ、翼と剣が組み合わさった形のオブジェが中央に置かれた祭壇を見ながら、ラディウスはそう思いつつ、近づいていく。

 そして、祭壇に一番近い所にある椅子に座ると、そのままあれこれと思考を巡らせ始めた。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「……え? えええええぇぇぇっ!?」

 ラディウスの耳に、そんな驚きの声が突然飛び込んでくる。

 

「……ん?」

 ――どうやらいつの間にか寝てしまっていたようだ。

 そう思いながら目を開けると、驚いた表情のまま固まっている修道服姿の少女が目の前にいた。

 

「……?」

 なにを驚いているのだろう? と思うラディウス。

 

「勝手に入ったらまずかったか……?」

 もしやと思ったラディウスがそう問いかけると、

「へ? あ、いや、そんな事ないけど……。って! そうじゃなくて! なんでラディがこんな所にいるの!?」

 なんていう想定外の言葉が返ってくる。

 

 ラディウスは自分の名を知っている以上、どこかで出会った事があるはずだと思い、目の前の少女をまじまじと見つめながら自身の記憶をたどる。

 

 ――ウェーブがかった銀髪に碧眼……? たしかに記憶にあるな……。あれは……そう、俺が生まれた村だ。そして村に定期的に……

 と、そこで脳裏に浮かんできた顔と、目の前にいる少女の顔とが一致。


 ラディウスはその瞬間、驚き、思わず叫んだ。

「……って! セシリアじゃないかっ! 聖女じゃない方のっ!」

 

「はあ!? 聖女じゃない方って何!? ま、まあ、たしかに聖女とは程遠いと自分でも思っているけど! 思っているけど! でも、今は一応、聖女扱いされてるから! 私!」

 セシリアが憤慨しつつそんな風に言葉を返す。

 

「……は? え? 聖女セシリアってお前の事、だった……のか……?」

 まったく想定していなかった事実に、目を丸くするラディウス。

 

「そうだよ! 聖女セシリアは私だよ! 同姓同名の別人とかじゃないからっ! ……あー、いや……まあ、その……実の所、私自身も想定外ではあるんだけど……ね」

 何故か途中からセシリアの語気が弱まる。

 

「想定外? それは一体どういう――」

 どういう事なのかとラディウスが問いかけようとした所で、大聖堂の隅にある鐘塔の鐘の音が鳴り響いた。

 

「うわっと! い、いけない! 急いでやらないと!」

「どうかしたのか?」

「あ、えっと、それも含めて話したい事は色々あるんだけど、これからやらないといけない事があって……だからその、明日……は、無理だから……明後日! 明後日の午後にまた来――ふぎゃあっ!?」

 一方的に告げながら、慌てて立ち去ろうとしたからなのか、修道服の裾に自分の足を引っ掛け、勢いよく床に顔面からダイブするセシリア。

 

「……お、おーい、大丈夫か……?」

 ラディウスがそう問いかけると、セシリアはガバっと上体を起こし、

「……な、なんともないよ……!? 全然なんともないから……っ!」

 と、赤面しながら強気な口調で返す。

 しかし、その顔――鼻からは血がだくだくと流れ出しており、全然大丈夫ではなかった。

 

「それのどの辺がなんともない、なんだよまったく……。ほれ!」

 ラディウスは馬車の中で作っておいたタリスマン型のガジェットを取り出し、セシリアの前で屈むと、そんな軽い感じで魔法『レストア』を発動した。

 

 直後、緑色の光がセシリアを包み込み、セシリアの傷と痛み、そして流れ出す血、その全てが一瞬にして取り除かれる。

 

「ほ、ほへ? これ……回復……魔法?」

 まるで先程のラディウスのように、目を丸くするセシリア。

 

「いや、今のは単なる修復魔法――レストアだよ」

「うえっ!? 修復魔法!? 修復魔法って壁とか床とかの破損を直す魔法だよね!? なんで怪我まで治るの!?」

「そりゃまあ、ちょっとばかし改造したからな。ある程度の傷なら『修復』出来るぞ。まあ、腕が吹っ飛んだとか、腹に穴が空いたとかは、さすがに無理だが」

 セシリアにそう説明し、肩をすくめて見せるラディウス。


「あ、あー、そういえばラディは、昔から魔法を改造したりしてたっけね……。今でも――」

 昔の事を思い出しながらそこまで言った所で、急いでいた事を思い出し、ハッとするセシリア。

 そして頭を抱えながら言い放つ。

「って! 悠長に話をしてる場合じゃなかったんだったぁぁっ!」


「と、とりあえず、その……えっと……あー、うー、あー、あ、ありがとう……」

 赤面し、ひとしきり目を泳がせてから、とても恥ずかしそうに感謝の言葉を述べるセシリア。

 ラディウスはそのセシリアの姿を見て、懐かしさを覚えつつ苦笑する。

 

「どういたしまし――」

「そ、それと、明後日の午後だよ! 忘れないで来てよっ! 来ないと地の果てまで追いかけて怒るよ!」

 ラディウスの言葉に被せる勢いで、恥ずかし気な表情で矢継ぎ早にそう言い放つと、素早く立ち上がって修道服の裾を手で捲るなり、踵を返して駆け出した。

 

「お、おーい……。聖女がそんなドタドタと走ったらまずくないか……?」

 裾を捲くったまま走っていくセシリアの背に向かって、ラディウスが呼び止めようと声を出すが、残念ながらその声はセリシアには届かなかった。


 ――ま、いいか……。セシリアは、昔からあんな感じだったしな……

 ってか、クレリテが言っていた『あんな性格じゃない』っていうのは、聖女として猫を被っているか、それともツンデレ気味な所か、どっちかなんじゃ……

 セシリアの姿が見えなくなった所で、ラディウスはやれやれと思いつつ、そんな推測をするのだった。

もう出てきたの? 的な『聖女セシリア』ですが、今回は顔見せ程度です。

本格的な出番は、結構先です……


――――――――――

『サイキッカーの異世界調査録サーベイレコード』第4章第9話も同時公開です!

こちらもあちらもどちらも(何)よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ