第7話 ふたつの世界。ビブリオ・マギアスと障壁魔法。
「もっとも……ビブリオ・マギアスに関しては、国も警戒していますし、そう簡単に国境を越えてくる事はないでしょう」
御者台から、アイシャがラディウスたちに向かって言葉を投げかけてくる。
それに対し、セシリアは腕を組んで考える仕草をしながら、
「うーん、どうかな……。律儀に街道を通ってくるとは思えないし、警戒の薄い山岳地帯を踏破してきたりされら、おそらく侵入を許す事になると思うな」
と、そんな風に返した。
セシリアのその言葉に、ラディウスはガジェットの作業を進めつつ、思考を巡らせる。
――この国の国境線は、関所や城壁が築かれている場所以外は、川、森、そして山のどれかで構成されている。
国境となっている川は、どれも見晴らしが良いし、各地に監視哨が設置されているので、ここから侵入するのは難しいと言っても過言ではない。
森も何気に探知魔法のガジェットによって常時監視されており、怪しい人間を感知し次第、森林猟兵団という軍の特殊部隊が即座に駆けつけるはずだから、こちらも侵入は難しい。
だが、山――山岳地帯は、凶悪な飛行タイプの魔物がひしめくグラスカーナ山地か、鋭い岩山ばかりな上、ところどころ凍結すらしているディゲルタの岩峰のどちらかしかない。
そんな山岳地帯ゆえに、人が生身で立ち入れるような場所ではないと考えられているし、そこを越えてくる事なんざ想定すらされていない。
なので、たしかにセシリアの言う通り、そこを越えて来られたら侵入を許す事になるだろう。
「あそこを越える術を連中が持っていると?」
司祭がもっともな疑問を口にする。
「可能性はある……と思っています」
と言いながら、ラディウスの方を見るセシリア。
それに気づいたラディウスは、説明しろ……という事だろうかと考え、
「――飛翔魔法や隠蔽魔法を利用すれば、突破する事自体は……まあ、出来なくはないだろう。それと……時間はかかるが、岩盤を掘削する魔法でトンネルを掘るという荒業もある」
と、セリシアに告げる。
「が、岩盤を掘削って……。なんというか、凄くとんでもない方法だけど……そういう魔法があるなら、たしかに可能性はゼロじゃないね」
「ああそうだな。ただ……今言った魔法が組み込まれたガジェットを作るのは、正直容易な事じゃあない。だから、最初からそういった魔法の組み込まれたガジェットを、古代遺跡あたりで見つけない限りは難しい気はするな」
驚きと呆れの混じったセリシアの言葉に頷き、そう答えるラディウス。
「ちなみに、ラディウスには作れるの?」
「作れなくはない……と思うが、それ相応の素材と大掛かりな魔導装置――作業用設備が必要になるな。手持ちの魔導工具だけじゃ無理だ。逆を言えば……ビブリオ・マギアスのような『組織』でなければ難しいとも言える」
ラディウスがセシリアの問いにそう答えた所で、
「なるほど……。ビブリオ・マギアスなら作る事が出来てもおかしくはない……と。念の為、警戒するように国に伝えた方が良さそうですね……」
顎に手を当てながら、そんな風に司祭が言った。
――この人、どうやら国のお偉いさんとも繋がりがあるみたいだな。
まあ、セシリアの事を考えると『裏の顔』があってもおかしくはなさそうだが。
ラディウスは、そんな事を思いながらも作業を続けていき、街まで後少しという所でガジェットが完成した。
試しに使ってみると、何の問題もなく動作し、障壁魔法が発動する。
――よし、これなら耐えきれそうだな。さすがに戦闘中のまま放っておくのは精神衛生上良くないし、とっととあっちへ戻るとするか。
ラディウスは心の中でそう呟くと、レゾナンスタワーのあの場所を思い浮かべた――
第100回です!
なんだかんだで、100話目まで到達する事が出来ました!
ありがとうございます!
……次回の途中であちらへ戻るとか前回のあとがきで書きましたが、ビブリオ・マギア関連の話が長引いてしまったので、戻る所で区切りました……
さて、次回ですが……申し訳ありません、なかなか余裕が出来ない為、今週も1日おき更新の予定です orz
なので、木曜日の更新を予定しています。
追記:誤字と衍字があった為、修正しました。