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プロローグ 転生者は思う。過去へ戻ろうと。

ちょっと長めで、出だしは若干シリアスです。

ですが、本作はギャグ要素を少し多めにする予定(?)ですので、このプロローグも途中からシリアス感が消し飛びます(何)

 広大な森に囲まれつつも、圧倒的な存在感を放つ黒鉄によって造られた巨大な漆黒の砦――

 夜の闇と雨により視界は悪いが、赤や緑の光を放つ数多の警戒灯によって照らされ続けている為、さほど暗さは感じられないその砦の城塁に、この辺りでは珍しい黒い髪を持つ壮年の男が立っていた。

 

 男は、古風な単眼鏡タイプの望遠鏡を使い、肉眼では見えない距離にある豪奢な城の様子を覗いている。

 

 と、その望遠鏡の視界一杯に紅蓮の光が灯り、続けて爆音が男の耳に届く。

 遠すぎるがゆえに、音よりも光の方が先に届いた形だ。

 

「…………」

 男は無言のまま、苦々しい表情を見せる。

 しかし、そんな男の表情とは真逆に、砦の中からは歓声が上がった。

 

「よーし、これで立て籠もっていた連中を殲滅出来たな!」

「籠城とか無駄なんだから、さっさと降伏すればいいものを」

「まったくだぜ。鏖殺じゃ労働力も金も得られないから、こっちにも利がねぇのによ」

「しかし、さすがは稀代の天才なんて言われている魔導博士様が作った兵器だけはあるな」

「ああ、あんな目に見えねぇくらい遠くにある城を一方的に攻撃出来るなんて、凄まじいぜ」

「あの方とあの方が作ったガジェットと兵器がある限り、我らに敗北の二文字は存在しないな!」


 そんな声がそこかしこから聴こえてくる。

 その声を聞きながら男は思う。悔やむ。

 

 どうしてこうなったのか、と。

 もっと平和に、優雅に、のんびりと暮らしたかったのに、気づけば転生前の知識をもとに、強力な戦闘用の魔法が使えるガジェットを大量に作っていた。

 

 ガジェット……それは人間が魔法を使うための道具。

 ――そう、この世界には魔法がある。

 しかし、人間という個体には魔力は存在しないため、普通は使えない。

 

 そこでガジェットの出番となる。

 世界に満ちる魔力、あるいは魔物が宿す魔力……そういったものが結晶化した魔晶と呼ばれる代物を、特殊な装置に嵌め込む事で、始めて人間は魔法を使う事が出来るようになるのだ。

 この装置が組み込まれた物――それがガジェットだ。

 

 だが、この装置は特殊と言った通り、遥か古の時代に作られた遺物であり、現代の技術では完全に同じレベルの物を作る事が出来なかった。

 作れても古の時代に作られた物のデッドコピーを更に劣化させた程度の物が良い所である。

 ただひとり、その男を除いて……

 

 かつて、別の世界――地球から転生したその男には、地球で暮らしていた頃の知識があった。技術もあった。

 

 魔法を使うためのガジェットに組み込まれている特殊な装置は、魔晶の配置や魔晶と魔晶を繋ぐ魔導鋼線の接続方法などによって、性能が大きく変化する。

 それはつまり、簡単に言えば電子機器――その回路の類と同じようなものだという事である。

 

 男はそういった物に関する知識、技術があった。

 それを利用して、今まで誰も作れなかった古の時代と同じレベル――どころか、それを遥かに凌駕するガジェットを生み出していった。

 

 男はふと思う。

 最初のうちは、作るのが楽しかった、と。

 自分の作った物が、大量の魔物を薙ぎ倒していった時は気分が良かった、と。

 でも、それは魔物という意思疎通の不可能な人間の絶対的な敵であったからだ。

 

 古の時代の物と同等、あるいはそれ以上のガジェット――そして、そこから放たれる攻撃魔法によって、魔物はその数を瞬く間に減らしていった。

 魔物が減ってくると、人間はその強力な道具を魔物以外にも使い始めた。

 

 そう……人間に対してだ。

 他国との戦争に使われ始めたのだ。


 先程のように城1つ……どころか、都市1つですら一撃で吹き飛ばすような攻撃魔法を前に、他国は為す術もなかった。

 結果、その男の国は版図を劇的に広げていく事となる。

 自国以外の全てを――物も命も自然さえも灰燼に帰した姿へと変えながら、だ。

 

 自分の作った物が、城や都市を吹き飛ばしたのを目の当たりにして、ようやく自分の行為の愚かさを悟った男は、国に――王に、使用を中止するよう進言した。

 

 しかし……既に時は遅く、王のみならず、兵士も、一般市民すらも、国の快進撃に熱狂し、そして酔いしれ、止まる事など出来ない状態に陥っていた。

 

 せめて、前線に赴いてギリギリまで使わないようにしよう。

 そう考えて赴いたものの、結果はこれだ。

 

 ……もはやこうなってしまっては、止める手段は皆無だと言っても過言ではない。

 降りしきる雨と同じく、止める事など不可能なのだ。

 どれだけ嘆き、悔やもうとも、もうどうにもならない。


 時を、戻す事が出来ぬ限りは――

 

 ならば……それならば……時を戻そう。過去へ戻ろう。もう一度やりなおそう。

 研究中の……作りかけの、時を遡るガジェットを完成させて……!

 

 改めてそう決意した男が、懐から懐中時計を取り出した。

 それこそが時を遡るガジェットとなるはずの物だ。

 それは、理論的には成功しているはずなのだが、上手く作動しない。

 どうやら、作動させるために必要な『何か』が欠けているようだ。

 

「その欠けているのが何なのかわかればな……」

 そう誰にともなく呟く男。

 

「はーっはっはっ、欠けているのは、貴様の注意力だ! 魔導博士ラディウス・ヴァル・アーゼルっ!」

 若い女の笑い声――ほとんど高笑いに近いが――が響く。


 男……ラディウスは、懐中時計を懐にしまいながら、声のした方へと顔を向ける。

 すると、城塁上に設置された砲台の上に立ち、剣をこちらへ突きつける女性の姿があった。夜の闇の中でもひと目見てわかる程の長い金髪と赤眼だ。

 

 ――いや、なんでそんな所にわざわざいるんだよ……

 ラディウスは心の中で呆れつつ……いや、実際に脱力しながら問う。

「……えーっと、誰だ? 階級章は……星1つ……。十人隊長か?」

 

 しかし、女性士官はその問いには答えず、

「我が名はカルティナ! 貴様によって、住人全てが、街と共に一瞬にして蒸発させられたグランベイルの生き残りだっ!」

 と、やたらと芝居がかった口調で、そんな事を声高に叫ぶ女性士官――カルティナ。


「……グランベイル? ……ああ、あれの事か……。使われたガジェットは、俺が生み出した物だが、あれをやったのは俺じゃな――」

 グランベイルという町に起きた過去の出来事を思い出しつつ、そう否定の声を口にするが、カルティナは聞く耳を持たず――というより最初から聞いておらず、怒気を含んだ声で言い放つ。

「遺体も形見も! そこに街があった痕跡すら、この世界から消されたのだ!」

 

「いやだから――」

「言い訳無用っ!」

 ラディウスの言葉を遮り、カルティナが激昂する。

 

 ――あ、だめだこれ、話が通じないタイプだ……

 どうしたものかと考えるも、答えが出るより先に、剣を構えてラディウスに向かって飛びかかってくる女性士官。

 

「おっと!」

 さすがに分かりやすい攻撃だったので、バックステップで回避するラディウス。

 

「くっ! 外したかっ!」

 悔しげな声を上げながら、カルティナは着地と同時にラディウスの方へと踏み込みながら突きを放つ。

 

「うおっ!」

 ラディウスは、カルティナの突きをギリギリで身を捻って回避する。

 更に振り向きざまに放たれた横薙ぎも、横――カルティナの背面方向へと大きく飛び退く事で回避した。

 そして、救援の兵士を呼ぶためのガジェットを胸ポケットから取り出す。

 

「ええい、逃げるな! この――うひゃぁっ!?」

 唐突にそんな声が響く。

 何かと思い、ガジェットを手にしたままカルティナの方へと視線を向けるラディウス。

 

 すると、そこには転倒しているカルティナの姿があった。

 ――なぜ、何もない所で転んだんだ……? 振り向こうとして足がもつれた……とかか?

 と、ラディウスがそう思った瞬間、腹部から激痛が走った。

 

「ぐっ……!?」

 ラディウスが腹部を見ると、心臓に深々と剣が刺さっていた。

 倒れているカルティナの手を見ると、持っていたはずの剣がない。

 

 ――まて……。どうしてその剣が俺に……?

 ラディウスはそう疑問に思いつつも、手に持ったままのガジェットを使い、救援の兵士を呼ぼうとする。

 だが、ガジェットを使うための声を発する事が出来なかった。

 直後、ラディウスの身体が傾き、そのまま身動き一つする事なく仰向けに倒れ込む。

 

「け、剣はどこだ……? 転んだ拍子に手放してしまうとは、不覚っ!」

 などというカルティナの声が、倒れて動けにラディウスの耳に届く。

 

 ラディウスはその声で理解する。

 転んだ拍子にすっ飛んだ剣が、ラディウスに偶然突き刺さった事に。

 

 ――こ、こんなギャグみたいな話が……あるというのかっ!? くそっ、まだ……死ぬわけには……いかないというのに……っ!

 実にありえない――まさにギャグだとしか言えないような状況で、死の淵に瀕するラディウス。

  

 時を遡るガジェットを完成させるまでは死ねない。

 自分を中心に広がりゆく血溜まりの中で、そうラディウスは思った。

 しかし、身体は動かない。

 

「な、なぜ、剣が勝手にラディウスに刺さっているのだ? ……はっ! まさか、自分の行いを悔いての自害か!?」

 カルティナがなにやら盛大に勘違いをした事を口にする。

 全然違うと否定したいラディウスだったが、当然のようにその口は動かない。


 ――折角、異世界転生なんてレアな経験をしたというのに、その終わりが……こんなしょうもない事とは……。だがまあ……ある意味、自業自…………

 ラディウスの思いは、そんな諦めのものへと変わり、最後まで思考する事なく途切れた。

 

 その直後、血まみれになったラディウスから――正確に言うなら、ラディウスの懐から赤い光が放たれる。


「こ、これはいった――」


 カラン、という剣が転がる音が響き渡り、周囲が静寂に包まれる。

 血溜まりと剣だけを残し、ラディウスもカルティナも、その場から完全に消え去っていた。

というわけで、新作始めました!

別作の『サイキッカーの異世界調査録サーベイレコード』と比べると、ストーリー展開の複雑さはあまりないようにしています(あちらはややこしすぎるとも言う)


本作は『サイキッカーの異世界調査録サーベイレコード』では、あまり使われていない世界観設定の1つである『道具で魔法を使う』を主軸にしています。

とはいえ……主軸にしているだけで、細かい設定などは完全に別物であり、世界も完全に違いますので、繋がりなどは一切ありません! 単純に新しい話だと思っていただいて大丈夫です!


というわけで、よろしくお願いします!

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