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「大丈夫か?」
陛下を追い出したアルクトスが戻ってきた。
「平気よ。それよりもメアリー・ヘスティアがどんな人物か調べておいて。彼女が側妃になる可能性があるから人となりは知っておきたいの」
「別に構わないが、下級貴族が側妃って無理だろ」
「普通はそうね」
王侯貴族の婚姻は利害関係の一致で行われる。それは側妃も同じ。
政治的あるいは経済的な価値を国に与えられない。現国王の治世を盤石なものにさせられるだけの権力を持っていない。そんな人間が側妃になれるわけがない。
王妃の代理を務めることも有る為、側妃の条件は伯爵家以上の爵位を持った者とされている。その時点でメアリー・ヘスティアの側妃入りはない。でも・・・・・。
「リーベルト公爵が後ろ盾になる可能性がある。私よりもメアリー・ヘスティアを正妃に据えた方が彼にとっては都合がいい」
私の言葉にアルクトスが殺気を纏わせる。
私の言葉はつまり、メアリー・ヘスティアを側妃にした後は私を排して彼女を代わりにするということ。今でさえ公爵側から暗殺者が送られてきたり、食事には毒を盛られるというなかなか気の休まらない日々を送っている。
それが更に激しくなる可能性がでてきたのだ。アルクトスが殺気立つのも仕方がない。
★★★★★★★★★★★★
そして案の定、メアリー・ヘスティアの側妃入りが決定した。
「ダメです」
そして私は今、再びルルシアと対峙している。
メアリーの嫁入り道具を揃えるのに金を出せというルルシアの要求を私は満面の笑みで退けた。
「お前、随分と増長していないか。あまり図に乗るなよ」
意味が分からない。正論を言っただけなのに。
「持参金が出せない側妃など前代未聞です。けれども彼女の家の経済状況を考えて敢えて追及は致しません。けれど嫁入り道具を買う金がないから王宮で用意しろというお願いは聞けません。それはそちらで用意すべきこと。そもそも側妃入りが決定する前からそれは分かりきったこと。それでも側妃入りをすることを選んだのは彼女。ならば借金をしてでも自分で何とかすべきことですね」
それをせずに王族に要求してくるなど恥知らずにも程がある。
アルクトスの調査によればメアリー・ヘスティアは典型的な貴族令嬢。
男の前で態度を変える。それに侍女仲間に「自分はこのままでは終わらない」と言っていたとか。かなりの野心家のようだ。
本当に厄介な者を側妃にしてくれたものだ。
こちらが思った通り、リーベルト公爵がメアリー・ヘスティアの側妃入りに大きく関わっている。彼がメアリーの後ろ盾になったことで側妃入りができたのだ。
だんっ。
ルルシアがテーブルを拳で殴った。
「そなたは何と冷たいのだ。これから同じ立場になる者同士、助け合おうという気がないのか」
『同じ立場』
その言葉が私は許せなかった。
「一方的な手助けは助け合いとは言いません。第一、彼女の後ろ盾にはリーベルト公爵がいます。こちらに頼る前にまず公爵に相談するのが筋ではありませんか?」
「お、おお」
私に気圧された陛下が前のめりになっていた体を後ろに引いた。私から距離を取ろうとしたのだ。けれどソファーに座っている為大して距離は開かなかった。
「それに私と彼女を同列に扱わないでいただきたい。私は国家の為に貴族としての義務を果たすべくあなたの元に嫁ぎました。決してメアリー・ヘスティアのように恋愛ごっこをする為ではありません。御用がないのでしたらお引き取り下さい。アルクトス」
「はっ」
ルルシアは以前と同様に、アルクトスに摘み出された。
今回は私が出した殺気に驚き、呆然となったまま出されたのでとても静かだった。