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「今、何と仰いました?」
私はエルドラント王国の王妃、アイリーン。
目の前にいる金髪に青い目をした顔だけはいいこの男は私の夫であり、この国の王。ルルシア・エルドラントだ。
「メアリーを側妃に迎える」
「メアリーとはメアリー・ヘスティア子爵令嬢のことですか?」
私の言葉にルルシアは驚いた顔をしていた。
「知っていたのか?」
ええ。昨日、あなたとメアリーのラブシーンを見てしまいましたからね。
執務を人に任せきりにして自分はやりたい放題。私はそんなあなたに今まで尽くしてきた。王が馬鹿なのは分かりきったことだから臣下は早々に諦め、王を支えられる王妃を望んだ。
そして不幸にも選ばれたのがこの私。
「貴族名鑑に載っている貴族は傍系まで頭に入っています。王族なら常識です」
私がそう言うとルルシアはとても嫌そうな顔をしてそっぽを向く。まるで子供だ。
「そなたの常識など知らぬ」
私は王族として常識を説いたのですが。
嫌なことから目を逸らすのは昔からだ。臣下や侍女、家庭教師は何度もそんなルルシアを叱ったが彼はそれを『虐待』や『不敬罪』という言葉で片付けた。そして先王弟殿下であるリーベルト公爵がそれをよしとした。
自分の傀儡にする為に無能な王を作り上げたのだ。
その対抗策である私は父の言う通り陛下の代わりに執務をし、陛下の愛情を欲さず、陛下があげてくる無理難題の願いを可能な限り叶えてきた。
でもそれはこの前までの私だ。
義務も果たさず、下級貴族の女に入れあげる王にどうして私が自分を犠牲にしないといけないの。馬鹿らしいじゃない。
「側妃をするには諸侯らの承認が必要です。貰っていますか?」
「そうなのか?」
何で知らないんだよ。
私の額に青筋が立っているが顔だけは何とか笑顔を張り付けている。
「では貰っておいてくれ」
「お断りします」
「何?」
「お断りします。と申し上げました。ご自分が側妃に迎えたいとお思いならご自分で貰ってきてください。私は忙しいのでそのような雑務をしている暇はありません」
今まで「はい」と言っていた私の初めての反抗にルルシアは何が起こったのか理解できていないようだ。
これは好機だな。
「アルクトス、陛下はお帰りを。出口までご案内して」
案内するまでもない。ソファーの横にあるドアを開ければいいだけだ。
赤黒い髪に右目を眼帯で覆っている大男がルルシアの首根っこを掴んで部屋から追い出した。
彼は私の護衛だ。